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表紙

手を伸ばせば その143


「結局、凄い恋愛は望めないから、近場で間に合わせようっていうんだな」
 パーシーがぶつぶつ言うのを聞いて、ジリアンは危うく泣き笑いしそうになった。 その『近場』が大物なんじゃないか。 もし魔法の杖を持っていて、彼の肩を叩き、「身も心も私のものになれ〜」と呪文を唱えて、その通りになるものなら、家柄なんかに何の未練もなく、ヘレンに続いて駆け落ちしただろう。


 ジリアンは何とか自分を抑え、足を止めてパーシーにニパッと笑ってみせた。
「そうは言ってないわよ。 私たちまだ十五で……あなたはもう十六になった?」
 パーシーが不意に顔をそむけた。 不明瞭な声が、低く告げた。
「ああ、二月の初めに」
 ジリアンは憮然とした。
「なんだ、教えてくれなかったのね。 プレゼントぐらいあげたのに」
「どうってことないよ。 まだ十六ぽっちじゃないか」
「じゃあ、成人する二十一の誕生日には、必ず贈るわ」
「五年も先のこと、もう約束してんのか?」
「そうね……」


 ジリアンは、ぐっと落ち込んだ。 五年先の二月、自分は二十歳とちょっとだ。 まだピカピカの年頃ではあるが、それまで親が独身でいるのを許してくれるとは、到底思えなかった。
「退屈な未来が、目に見えるようだわ。 どこかの気取った高位貴族の奥さんになって、嫌いな夜会に遅くまで付き合わされて、朝食抜きの頭痛持ちで」
 なんという暗い見通し! せめて野外活動の好きな夫を見つけて、乗馬ぐらい自由に楽しみたい、と付け加えようとしたその瞬間、ジリアンは物凄い力で抱き寄せられて、グッと息が止まった。
 耳たぶに、嵐のような息が被った。
「そんなこと、させるか! 君は俺のもんだ! それでもいいと自分で言ったんだから、もう逃がさない!」









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