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その140
その夜の晩餐会で、ジリアンはとても静かだった。
あまりおとなしいので、斜め前の席についたフランシスが心配して、ときどき顔を向けて様子を見るほどだった。
目が合うと、ジリアンは微笑んでみせた。 母に何を約束させられようと、兄に責任はないのだから、落ち込んだ様子を見せてはいけない。 それに、ジリアンもただ黙って譲ってばかりはいなかった。 家門の誇りになるような相手と結婚しなさい、と言われて、条件に合う候補がもし二人以上現れたら、自分で選ばせてくれと頼んだ。
だが、こうやって名門の大人たちと長いディナーテーブルを囲んでいると、気持ちがどんどん落ち込むのを止めようがなかった。
デナム公爵家に負けないほど由緒正しい家柄で、財産家で、独身。 イングランドの上流社会で、そんな完璧な花婿候補が、いったい何人いるだろう。 きっと片手の指も埋まらないぐらい、わずかだ。
たとえスコットランドまで範囲を広げたとしても、たかが知れている。 アイルランドまでだと……
ああ、頭が痛い。 そんな希少動物が、『美人三人姉妹』のおまけ程度の存在のジリアンに、果たして申し込んでくれるのか?
深い溜息をつきそうになって、ジリアンは慌ててバジル・ソースのたっぷりかかった鴨肉を攻略しにかかった。 いつまでも手をつけずに放っておくと、配膳係が来て下げられてしまう。 自慢の料理をジリアンが食べなかったら、ユーグは怒り、そして心配するだろう。
食欲がないのを隠して、無理やり飲み込んでいると、二人分離れた左横の席から、パーシーが眺めているのに気がついた。 視線が合うと、彼はニヤッと笑って、フォークで空中に字を書いてみせた。
O……U……T 外で?
わかった印に、ジリアンは人差し指でフランス窓の向こうを指し、首をわずかにかしげた。 通じたのを知って、パーシーは軽く頷き、もりもりと鴨を食べ始めた。
正餐が終わり、人々が三々五々食事室から出ていった後、ジリアンはドレスにケープをまとって、こっそり裏口から庭に出た。
パーシーは、部屋の外壁に寄りかかっていた。 ジリアンが近づくと、彼は珍しく両腕を差し伸べ、彼女の手を包むように握った。
ずいぶん深く男性的になった声が、囁くように言った。
「驚いたな。 マディはともかくヘレンはあまりよく知らないが、こんなに勇気があったとはな」
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