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手を伸ばせば その124


 そのとき、裏手の廊下からドッとどよめきが上がった。 横の大広間とは反対の方角なので、パーシーは眉をひそめて呟いた。
「なんだ、あれは?」
「ああ、若い連中がボーリングをしてるんだよ」
 少年と青年の境目の年代で、どちらの会場にも行けるフランシスが、のんびり答えた。
「運動は何でも得意だろう? 行ってみるか?」
「この服で? あっという間に背中が裂けるよ」
 パーシーは笑い、フランシスの横に腰かけた。
 隣にいたフランシスの友達が、そっと彼を突っついた。
「紹介しろよ」
「え? ああ。 パーシー・ラムズデイルだ。 マディの結婚相手の弟。
 パーシー、こちらはフレディ・ノースランド。 大司教の息子でね、僕の学校仲間だ」
「はじめまして」
「どうも」
 二人の若者は、手を伸ばして握手し合った。


 五分も経つと、パーシーは昔からの友達のように溶け込んで、いささか品のない話を交わしながら、腿を叩いて笑っていた。
 そこへがやがやと、廊下で遊んでいた一同が戻ってきた。 顔を上気させ、額に汗をにじませたヘンリーが、我が物顔にジリアンの腕を取って、真っ先に入室した。
「誰が勝った?」
 フランシスが大声で訊いた。 すぐにヘンリーが、小脇にかかえた上着を振ってみせた。
「僕です! ストライク四回で、百四十五点取ったんですよ!」
「そりゃすごいな」
 フランシスは素直に感心してみせた。 この頃のボーリングは、二百点パーフェクト制だった。
 パーシーは、まるで興味なさそうに、フレディと話していた。 だが、ヘンリーが我が物顔にジリアンに椅子を引いてやり、かいがいしく飲み物を取ってくるのを、いつしか彼は目で追っていた。
 その様子に、フランシスは誰より先に気づいた。 だが、何も言わず、知らん振りを装った。
 商人の次男坊と、公爵の娘。 二人の間には、底が見えないほどの深い溝が横たわっている。 初恋の仄かな名残りがただよっていたにしても、そっとしておいて消えるのを待つのが、大人の対応だった。











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