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その122
深紅のドレープ・カーテンで優雅に囲み、ピンクとクリームの薔薇で飾りつけられた大広間は、人々の熱気で溢れかえっていた。
ジリアンは、兄のフランシスにエスコートされて、最奥の広間に入ろうとしたところ、きゃしゃなダンス靴を履いた足首を不意に掴まれた。
思わず悲鳴を上げそうになったが、どうにかこらえて下を見ると、巨大な花瓶を置いた丸テーブルから、そばかすの散った顔が覗いていた。
ジリアンは目立たぬように屈んで、コリンの顔を両手で挟んだ。
「こらー、いたずらっ子」
横からリュシアンも顔を出し、淡いブルーに白レースの花をシャンパンの泡のように散りばめたジリアンのドレスを、息を呑んで見回した。
「うわ、すごくきれい!」
「そう?」
ジリアンは、ちょっと気取って背を反らし、ゆっくり回ってみせた。 少年たちは、目だけでなく口も大きく開いて、ひたすら感心した。
「すげぇ。 ジリーじゃなくて、お姫様みたい」
「ちがうだろ? ジリーがお姫様みたいなんだろ?」
「まだ大人の会場へ行けないのが残念だね」
「いいんだよ、僕たちが大きくなってダンスに参加できるまで、ジリーはデビューしないんだから」
勝手な一人決めに、ジリアンは吹き出した。
「じゃ私は、あと八年待つの? ねえコリン、デビューぐらいさせてよ。 女王様にも謁見させていただきたいし」
横で待っていたフランシスが、そろそろじれてきたらしく、ジリアンの肩に触れて促した。
「さあ、もう行こう、ジリー」
そして、コリンとリュシアンの兄弟には、廊下の向こうを手で指してみせた。
「君たちは、とっくに寝る時間だろう? あの二枚目の家庭教師はどうしたんだい?」
とたんにリュシアンが、コリンの制止を振り切って、高い声で暴露してしまった。
「あのね、僕たちを寝室に放り込んで、すぐ出ていっちゃったの。 たぶん、僕たちと同じこと考えたんだよ」
「何を?」
フランシスが尋ねると、リュシアンはコリンに腕を引っ張られるのもかまわず、嬉しそうに答えた。
「ジリーがこんな凄いドレスを着てるとこ、見たかったんだ。 ね、コリン?」
ジリアンは本気にせず、黙って首を振ったが、フランシスは笑い飛ばさなかった。 むしろ深刻な表情になって、ひとり呟いた。
「やれやれ。 早く熱が冷めればいいがな。 うちの両親に知れたら、即ラムズデイル家を追い出されるぞ」
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