表紙目次文頭前頁次頁
表紙

手を伸ばせば その118


 少年たちも、急いで最短距離のサイドドアから飛び出してきたジリアンを見て、金切り声を張り上げながら飛びついてきた。
「ジリー!」
 三人でびっしり肩を組み、嬉しさのあまり飛び跳ねていると、馬車がきしんで、もう一人降りてきた。
 いやに冷静な声が言った。
「ガキのまんまだな。 同い年と思いたくないよ」


 いつもの通り、ジリアンは素早く顔を上げ、乱れた前髪の間から言い返そうとした。
 その口が、半分開いたままで止まった。 目の前にいたのは、見慣れた少年ではなかった。 黒の正装に身を包み、銀色のタイをピンで留めた、どこから見ても隙のない青年紳士だった。
 パーシーは、シルクハットまで新調していた。 ただ、馬車の狭い出入り口で邪魔になったのか、被らずに手に持っていて、ウェーブのかかった金髪が、雲間から気まぐれに姿をあらわす太陽に照らされて、絹糸のように輝いた。
 なんて立派に見えるんだろう。
 ジリアンは一瞬圧倒された。 だが、すぐに立ち直り、少年たちと肩を組んだまま、胸を張った。
「そっちが背伸びしてるだけじゃない。 老けちゃって、大学生ぐらいに見えるわよ」
 そうだそうだ、という感じで、両側の少年がケタケタ笑った。
「着慣れてないから、なんか格好つけちゃってる〜」
「紳士服店に飾ってある見本みたい」
「なんだと〜」
 肩を怒らせて、パーシーは三人のほうにずかずかとやって来た。
「俺があんなブリキの人形に似てるだと! この野郎、ちょっと来い」
「やーだよー!」
 コリンとリュシアンが、しめし合わせたように交差して逃げ走ったため、どちらにもパーシーの長い腕が届かなかった。
 三人がドタバタと走り回っているのを止めようとして、馬車から最後の乗客が降りてきた。 家庭教師のエンディコットだった。
「こら! いいかげんにしなさい、三人とも。 次の馬車が入ってきてるじゃないか」
 コリンとリュシアンが別々の柱に隠れ、パーシーが立ち止まったところで、エンディコットはジリアンに向き直り、感動の篭もった声で挨拶した。
「やあ、半年ぶりですね、レディ・ジリアン。 綺麗になりましたねえ。 びっくりしました」


 ジリアンは、目を大きくしてエンディコットを見つめ返した。
 綺麗になった? ほんとに?
 家族や仕立て屋ではなく、利害関係のない他人にそう言われたのは、初めてだった。











表紙 目次前頁次頁
背景:kigen
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送