表紙目次文頭前頁次頁
表紙

手を伸ばせば その112


 出会いを期待していたので、根が正直なジリアンは、驚いたふりをすることができなかった。
 それでも、あまり急いで振り向かないようには、気をつけた。 大人っぽく優雅に振舞うべし、という学院の教えが物を言った。
 ゆっくり顔を上げると、ジリアンはいくらか目を見開いて、一人で立っている軍服姿の青年に微笑みかけた。
「あら、こんにちは、大尉」
 とたんにマックス・レイクが二歩前に出て、ジリアンの横に並んだ。 全身から番犬のような警戒のオーラが出ている。 ジリアンはさりげなく彼に思い出させた。
「ほら、行きがけの船でご一緒だったデントン・ブレア大尉よ」
 デントン・ブレア? とレイクは呟いた。 警戒を解くどころか、額の縦皺が一段と深くなった。
「ハバストン侯爵のお身内ですか?」
 唸るような声で尋ねられて、大尉は気軽に答えた。
「ジェラルドの? その通り」
「あの方は信用できません」
 ぎょっとなるほど率直に、レイクは言い切った。


 大尉は絶句した。 ジリアンもびっくりしてレイクを見たが、その目には怒りではなく、賞賛の色がパッと広がった。
──まあ、マックス。 あなたもジェラルド・デントン・ブレアがインチキ男だと気づいてたのね。 ただ頭が空っぽなだけじゃなく、妙な狡さが感じられるものね。 ジェラルドには何かがある。 何か、とても嫌なものが──
 大尉は低く咳払いした。 彼とレイクの視線が絡み合い、小さな火花を散らした。
「ジェラルドは又従兄弟だが、わたしとはそれほど親しいわけじゃない。 ところで、君は?」
 問われて、レイクは結構幅広い胸をグッと反らした。
「マックス・レイク。 デナム公爵閣下の秘書です」
「なるほど。 レディ・ジリアンの付き添いをしているんだね。 では、あらためて自己紹介させていただこう。
 わたしは、マーカス・デントン・ブレア海軍大尉。 今はここジブラルタルの警護第二小隊に出向してきている。 よろしく」
 大尉が正式に挨拶したため、レイクもそれ以上仏頂面を続けるわけにはいかず、姿勢を正して軽く頭を下げた。
「お役目、ご苦労様です」
「ありがとう。 それで、偶然にも嬉しい出会いがあったわけだから、レディ・ジリアンに少し町を案内させてもらえないだろうか? もちろん君もご一緒に」
「……帰りの船が夕方の六時頃出港する予定なので、それまででしたら」
「時間前に、必ず港に送っていくよ」
「わかりました」
 あまり気の進まない様子ではあったが、レイクはともかく承知した。











表紙 目次前頁次頁
背景:kigen
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送