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手を伸ばせば その110


 夏休み休暇の始まる六日前に、秘書のマックス・レイクがジリアンの元にやって来た。 それは、級友の誰より早い迎えだった。
 フィニッシングスクールは、わりと融通が利くので、校長は早い帰宅を簡単に許してくれた。 だが、まだ先だと思って準備をしていなかったジリアンは、大慌てとなった。
 手先が器用で整理のうまいアマーリアと、気立てのいいゲルトルードが、荷造りを手伝ってくれた。
 後の連中は、部屋にたむろしているものの、レイクが土産に持ってきたクッキーを食べ散らし、手は動かさないで余計な指図をしていた。
「パーティードレスは置いてけば? どうせすぐ戻ってくるんだし」
「これは夏用だから。 帰りには、秋に着る重いドレスを持っていけって押し付けられるわ」
「すてきじゃない? 季節ごとに服を作ってもらえるのね。 うちは春と秋の二回だけよ」
 窓枠に座って足をぶらぶらさせながら、デニーズが嘆いた。
「母の実家は織物商人だっていうのに、父が倹約家で、贅沢はだめだって」
「うちはその反対よ」
 サラが別の意味の溜息をもらした。
「ドレスなんかいくらでも買ってやると言うの。 その代わり、上流社会の友達を沢山作って、そのコネやツテで、家柄のいいお婿を捕まえろって。
 でも、いくら上流でも、デオドラ・ジェンキンズやポーシャ・デルヌーヴと仲良くしたいと思う? デオドラはカササギみたいに何でもしゃべりまくるし、ポーシャは陰険で人の足を引っ張ることばかり考えてる」
 そこでサラは視線を移し、ほとんどうっとりした目つきでジリアンを見つめた。
「誇り高き英国貴族の令嬢たちが、みんなあなたみたいだったらねぇ」
 むっとして、ベスが胸に腕を組んで、前に出てきた。
「ちょっとちょっと。 私だって一応英国貴族の端くれよ」
「ごめん。 あなたたちみたいだったら、と言うべきね」
「いいわよ、わかってるんだから。 サラはジリーに夢中だもの。 ほとんど偶像崇拝だわ」
 ジリアンは閉口した。
「何言ってるのよ。 それより二人とも、友達なら手伝って。 トランクの蓋が閉まらないの。 自慢の上腕筋肉を使って、グイッとやってみて」
「それより、悩みの種のこの体重を使ったほうが良さそう。 クリスマスに三ポンドも太っちゃったのよ。 さあベス、そっち側にドンと乗って。 私はこっちに乗るから」
 二人の少女が勢いをつけて飛び乗ると、さしものトランクも、ギシッという悲鳴を上げてぴたりと閉じた。











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