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手を伸ばせば その107


 空気が急に重くなった。 ジリアンはやきもきした。 せっかくの楽しい誕生パーティーなのに、これでは気分が壊れてしまう。 でも、とっさに切り返す言葉が見つからなかった。
 そのとき、ゲルトルードが優しい声で、ぼそっと言った。
「それ多分呼び間違えたのよ」
 ベスは、きっとなって顔を上げた。
「そんなこと一度もなかったわ」
「キスしてるところを見つかったこともなかったでしょう? お母様はきまりが悪くて、頭が混乱したのよ。 うちの母なんか慌てんぼだから、しょっちゅう呼び間違えるわ。 ひどいときは、ABC順に指を折って、そうだ、あなたトルーディーだったわね、なんて」
 ふっと緊張がほぐれた。 少女たちは笑い出し、ベスの表情も緩んだ。
「そういえば……あと小声で何か続けてたわ。 文句言ってるのかと思ったけど、今考えると、違うわキャシーじゃなかった、と言ってたような気がする」
「そうでしょう?」
 ゲルトルードは勝ち誇ったように言った。
「急いで言い訳したぐらいだもの、あなたに嫌われたくないのよ。 なのに誤解で、もっと嫌われちゃって、お母様がっかりしてるわ、きっと」
「そう思う?」
「ええ、最近悲しそうじゃない?」
 しぶしぶ、ベスは認めた。
「そういえば、そうね。 私の機嫌を取ろうとするの。 口封じのためだと思って冷たくしたら、そのたびに泣きそうな顔してたわ。 私、父には何も話してないんだけど」
「根はお母様の味方なのね。 いいじゃない。 女は女同士。 私たちもずっと助け合って、仲良くやっていきましょう。 さあ、誓いよ!」
 情熱家のデニーズが手を差し伸べ、皆が面白がって、その手に次々と自分の手を重ねた。
「私たちミシェル・グレゴワール学院のはみ出しグループは……」
 ベスがクールに遮った。
「はみ出してないわ。 個性的なだけよ」
「わかった。 私たちグレゴワール学院の独創的なグループは」
 みんな大きく頷いたので、デニーズは安心して言葉を続けた。
「在学中だけでなく、卒業した後、それぞれ華やかな、また献身的な世界に入っていっても、この麗しい友情を保ち、育てていくことを、ここに誓います」
「誓います!」
 少女たちは一斉に声を合わせた。








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