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手を伸ばせば その105


 食事が済むと、副校長の指示で、少女たちは出入り口に近い者から退席した。
 ジリアンは新入生だが、親の身分のおかげで主賓に近い席にいた。 それで静かに順番を待っていると、校長のドリュアール氏がなごやかに話しかけてきた。
「クリフォード君、さっきの対処はなかなかよかったよ」
「ありがとうございます、先生」
 やはり試されているんだな、とジリアンは悟った。
「ここには今、八つのクラスがある。 課外授業や奉仕活動のとき一緒に行動するグループなのだが、君には二組に入ってもらうことにした。 隣のホイットモア君と同じクラスだ」
「やった!」
 すぐ横で、サラが嬉しそうに声を押し殺して呟くのが聞こえた。 ジリアンも何だかホッとした。 サラとは気が合いそうだった。


 左隣の黒い髪の少女は、食事の最初から最後まで一言も口をきかず、開放される時間が来るとすぐ立ち上がって、逃げるように戸口から出て行った。
 先に席を立ったのに出るのは後になったサラは、ジリアンにくっつくようにして、気さくに腕を取った。
「今出てったあの子は、ゲルトルード・ブラウアー。 ものすごいはにかみ屋なの。 あなたに感謝してると思うけど、話しかける勇気がないのよ」
「寄宿学校に入れたら可哀想なタイプじゃない」
 ジリアンは、ゲルトルード・ブラウアーの家族に腹が立った。 無口で人見知りな子は、思いやりのある家庭教師をつけるか、気の合う友達同士で勉強を教わるべきだ。
 楽しげにジリアンの肘を腕で締めつけながら、サラは言った。
「あなたは、綺麗なマシュマロみたいなマデレーンとは違うわね。 どっちかというと、銀の鎧をまとった凛々しい騎士って感じ。 誓ってもいいけど、ゲルトルードはあなたの輝く楯に護られて、これからは楽しい学院生活を送れるんじゃないかしら」
「せいぜい錆びて穴のあいた楯よ」
 ジリアンはひょうきんに吐息をついた。
「出る杭は打たれるっていうしね。 せめて最初のうちはおとなしくしておこうと思ったんだけど」
「でも、見かねて助け舟を出してしまった」
 サラはクスクス笑った。
「うちの兄に似てるわー。 面倒見がよすぎて、望まない喧嘩ばかりしてるの。 でもね、私はそんな兄貴が大好き」








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