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その104
一瞬の静寂が、テーブルを支配した。
それから、上級生の何人かが顔を見合わせ、ナプキンで口元を覆った。 コホンという副校長の咳払いが聞こえた。
黒髪の少女は度を失ってしまい、ナイフを下ろしてうつむいた。 とっさにジリアンは振り向いて、背後に控えていた配膳係の女性に声をかけた。
「これを片付けてください」
「かしこまりました」
がっちりした婦人は無表情に進み出た。 淡々と処理する手元を見ながら、ジリアンは尋ねた。
「ロブスターはまだありますか?」
「はい、ございます」
「それならお代わりを持ってきてください。 とてもおいしいので、殻に切れ目を入れてくれると更に味わい深くなると、料理人に伝えて」
「承知いたしました」
盆を持って、婦人は出ていった。
何事もなかったように、食事は続けられた。
隣の少女は、しばらく下を向いたままだったが、やがてぽつりぽつりと他の料理を口に運び始めた。
右隣の青いドレスを着た少女が、ジリアンに身を寄せて小声で話しかけた。
「うまく処理したわねえ。 高級レストランで食べ慣れているんでしょ?」
「そうじゃないけど、初めて食べたときは私もうまく切れなくて、ウェイターにやってもらったの。 それを思い出したのよ」
「そうか。 あのグレタおばさんじゃ、ザリガニの殻外しを頼んでも、その前にメッタ切りにしちゃいそうだものね」
そう言って、青い服の少女は忍び笑いした。
「グレタって、ロブスターを持っていってもらった人?」
「そう。 疲れ知らずの力持ちでね、用務員のジャン・コデーが転んで肩を痛めたとき、代わりに薪割りまでやっちゃったのよ」
「勇ましいわね」
「あなたも頼もしい」
少女はチラッとウインクし、言葉を続けた。
「私、サラ・ホイットモアよ。 アメリカのボストンから来たの」
「私はジリアン・クリフォード」
「知ってるわ。 レディ・ジリアンなんでしょ? マデレーンの妹さんで公爵令嬢なのよね」
「マディを知ってるの?」
「ええ、特に親しくはなかったけど。 彼女、可愛いから取り巻きがいて、親衛隊みたいになっちゃって、近づきにくかったの。 本人はあまり喜んでいなかったみたいだけどね」
へえ、マディはお姫様扱いされてたのか── 一見かよわくて、庇ってやりたいという気を起こさせるマディらしいと、ジリアンは思った。
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