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手を伸ばせば その84


 そのとき、不意に音楽が変わった。 人々は笑いさざめきながら、リボンのついたタンブリンを手に取り、ホールの真中を広く開けて輪を作った。
 曲は短調だが明るく、速いテンポで賑やかだった。 民族舞踊らしいので、マデレーンとハーバートは加わるのを止め、体を動かしたためにピンク色になった顔を手で扇ぎながら、席に戻ってきた。
 パーシーは物憂げな態度を変えて、鷹のような目つきでダンスを観察していた。
「これ、面白そうだな」
「タランテラっていうんですって。 南部やスペインで盛んなダンスだそうよ」
「誰から聞いたの?」
「あそこにいるフランス人のエラールさん。 物知りなの」
 ジリアンが首を伸ばすと、軍人風の髭を生やした小柄な青年がその視線に気づいて、にこやかに会釈した。
 ジリアンが彼にうなずき返したとたん、手を引っ張られた。 見ると、パーシーがすらりとした脚を伸ばして立ち上がり、踊りの輪に連れていこうとしていた。
 ジリアンは抵抗した。
「待って。 踊り方知らないし」
「俺はもう覚えた。 簡単だよ。 教えてやるから」
「でもね」
 力で叶うわけがない。 ジリアンは文句を言いながら、ずるずるとホールの中央部に引きずりこまれた。


 しぶしぶ踊り出すと、なるほど楽しかった。 とても早い六拍子の曲で、みんなで手をつないで横移動するかと思うと、今度は二人で腕を組んで回る、というふうに変化があり、飽きなかった。
 いつの間にか、パーシーもタンブリンを渡され、周囲の男連中に合わせて、離れるたびに頭上で叩いては戻ってきた。 こうして見ると、抜きん出て背が高く、はっとするほどの美貌だった。 実際、口を開けて彼に見とれている女の子が何人かいた。
 ジリアンは、居心地が悪くなってきた。 パーシーは同い年の未成年だし、いたずらをするときは本物のガキだが、見かけは既に充分大人として通用する。
 もう男の子じゃない。 男性なんだ。


 伴奏が一段と早くなって、シンバルの音と共に途切れた。 目の回るような気分で、ジリアンはテーブルに帰ろうとした。
 その手を、パーシーがしっかりと掴み、腰に腕を回して抱きかかえるようにして、人ごみをかきわけながら進んだ。 この娘は僕の物、と周囲に見せつけるように。










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