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その75
そのとき、澄んだ鐘の音がかすかに聞こえた。 昼食の知らせだ。 ジリアンは立ち上がった。
「食堂へ集まれという合図よ。 行かなくちゃ」
パーシーも続いて立った。 すらりとした体だが、弱々しいところはない。 伸びやかに大きくて胸板が厚く、もう大人に遜色なかった。
「じゃ、お別れのキスしようぜ。 新しいキスの仕方を習ったんだ」
上目遣いに、ジリアンはパーシーを睨んだ。
「どこで!」
「海岸にいた漁師の娘さ。 ボートを貸してもらうときに知り合ったんだけど、黒い髪で可愛いんだ」
「そう。 それじゃその子とまたキスすればいいわ」
言葉と同時に伸びてきた彼の腕を、すげなく引き下ろすと、ジリアンはさっさと出てきた戸口のほうへ向かった。
だが、途中で思い出して、また引き返してきた。
「もうこの屋敷の傍に来るのは止めて。 見つかったら、あなたと私だけじゃなく、ハーバートとマディも困ったことになるわ」
「わかった」
意外とあっさり、パーシーはジリアンの願いを認めた。
「もう止めるよ。 今日ここにこっそりやって来たのは、レンツォがどうなったか探りたかったからだ。 君を見つけたのは、いわばおまけ」
どうせおまけでしょうよ、と、ジリアンは獰猛に考えた。
「さあ帰って。 一緒に悪さをした兄さんが、後で町に行って全部話すと思うから、そのときまで待ってて」
「悪さじゃないよ。 正義の裁きだ」
パーシーは不満げに呟いた。 ちょっと言い過ぎたかと気が付いて、ジリアンはなだめることにした。
「そうね、私も男の子なら一緒にやったかも。 でも犯罪行為は止めて。 ほんとに心配したんだから」
そう言うと、ジリアンは背伸びして、パーシーの頬に軽くキスした。
不意に、彼が激しく息を吐いた。 同時に腕でグッとジリアンを抱き寄せ、いきなり唇を奪った。
それは、まさに大人のキスだった。 ジリアンは目を白黒させ、足をばたつかせたが、パーシーの力に叶うはずはなく、呼吸が苦しくなるまで様々な角度で口を重ねられた。
やっと顔が離れたとき、ジリアンは溺れかけた人のように、全身で息を吸った。 だから、抗議の言葉がすぐ出てこなかった。
パーシーも肩で息をしていた。 やった、という顔ではなく、むしろ苦しげな表情になっている。 そして、ジリアンが何らかの反応を示す前に、さっと身をひるがえすと、大股で温室を出ていった。
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