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手を伸ばせば その67


 二人は、そのままの姿勢でじっと見つめ合った。 なぜか目を離せず、お互いの視線に縛りつけられたように。
 パーシーの顔から、ゆっくりと微笑が消えた。 ジリアンを空中に支えた腕が徐々に曲がり、二人はこれまでになく密着した。
「もう一度キスしてもいいか?」
 寒さに冷えたジリアンの頬に、パーシーの熱い息がかかった。 あまり近づきすぎて、彼の顔がぼやけ、淡く陰影のついた平面に見える。 まだジリアンの足は空中に浮いたままだった。
「だめ」
 囁き返すと、ジリアンは彼を突き放す代わりに、首に腕を巻いて柔らかく抱きしめた。
「恋人ごっこは止めましょう。 ハーブとマディを幸せにしたいから、私たちは親を刺激しないほうがいいわ」
「恋人ごっこか……」
 切なげに呟くと、パーシーはその後に言葉を続けようとして止め、口を閉じた。


 パーシーが慎重にジリアンを抱き下ろした後、二人は少し離れて、恋人たちに近づいた。 こっちのほうはお互いの愛にひたって、周りで何が起きているか、まったく目に入っていなかった。
 ジリアンはマデレーンの肩に触れ、パーシーはハーバートの腕を乱暴に引いた。
「いつまでやってるんだよ。 離れろ」
「もう少し。 後五分」
「その未練が命取りだ」
 容赦なく言って、パーシーはハーバートをマデレーンの胸から奪い去った。




 姉妹が屋敷に戻ると、ヘレンがそわそわしながら迎えに出てきた。
「フランクが図書室にいるわ。 ジリアンに話があるって」
 ジリアンは急いでコートを脱ぎ、受け取りに来た召使に渡してから、廊下を飛ぶように歩いていった。


 ジリアンがドアを開いたとたん、窓辺に腰掛けていたフランシスが床に足を下ろし、厳しい顔をして近づいてきた。
「散歩に出たんだって? もしかして、隣の兄弟に会ってたのか?」
「ええ」
 ジリアンは小声になった。 フランシスは頭を振り、深刻な調子で言った。
「用心しろ。 絶対にレンツォには見つからないように。 あいつ、本物の危険人物だ」


 兄と妹は、図書室の横に設けられている読書コーナーに座り、暖炉で暖まりながら、話を続けた。
 馬でレンツォに追いついた後、フランシスはできるだけ離れないように、人なつっこさを発揮してつきまとったらしい。 だが、レンツォは大事な客人が共にいても、持ち前の横暴性を発揮したというのだ。








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