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その65
ハーバートはマデレーンに追いつくと、そこからは娘二人を護るように並んで走った。 がむしゃらに駆けてきて、あっという間に三人の横へ到達したパーシーだが、こちらもピトッとジリアンの傍にくっついて離れなくなった。
息を切らせながら、ジリアンが言った。
「先に行ったら? 足速いんだから」
「ここで風除けになってやるよ。 役に立つだろう?」
パーシーはしゃあしゃあと言い返した。
「もう」
口の減らない男だ。 ジリアンは流し目で横を睨んだ後、いいことを思いついた。 それなら逆手を取って、楽してしまおう。
「まだ池まで百ヤードぐらいあるわ。 疲れちゃった。 手引っ張って」
「しょうがねーなー」
偉そうに言うと、パーシーはいきなりジリアンの手を掴み、スピードを上げて走り出した。 ジリアンは驚いてキャッと小さく叫んだが、なす術なく連れていかれた。
背後では、ハーバートが笑いながら速度を緩めた。 同じく走りを歩きに切り替えたマデレーンと腕を組み、二人は寄りかかりあって、うっとりした表情で歩を進めた。
「一着〜!」
そう吠えると、パーシーは池のほとりに建った白い東屋の柱に抱きついて、半回転した。
やっと手を離してもらえたジリアンは、中のベンチによろめき込んだ。
「パーシーったら……息が……息が焦げるーっ……!」
「ジリーは軽いな。 藁人形みたいだ」
怒って、ジリアンは拳を握りしめた。
「私は案山子〔かかし〕じゃなーい!」
パーシーは大口を開けて笑った。
「ちょっと想像しちまったよ。 確かに雀は逃げるだろうな」
「あなたがなった方が迫力よ。 会う度に背が伸びて、筋肉が強くなってる感じね」
「祖先にバイキングがいるんだ、たぶん」
そう言いつつ、パーシーはジリアンの横にドサッと座った。
「なあ、レンツォって、マディを欲しがってる奴だろう?」
ジリアンの表情が、一挙に真面目になった。
「マディに目をつけてるのは確かだけど、真の狙いは持参金と家柄だと思う」
パーシーも真顔になり、長い脚を動かして、地面の小石をポンと蹴った。
「貴族って、そんなもんだよな」
「ええ。 でもレンツォは特別。 いいっていう意味じゃなくて」
そこでジリアンは、スザンナの悲劇をパーシーに語った。
珍しく、パーシーは最後まで黙って話を聞いた。 そして、目を地面に据えたまま、不気味なほど落ち着いた声で、一言口に出した。
「ぶっ殺してやりたいな」
「私も」
思わず相槌を打ってしまい、ジリアンは焦った。
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