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その56
リカルドが何か言いながら籠をスザンナのほうへ押し出した。 豊富な中身を見て、スザンナは目の縁を赤くし、反射的にリカルドの頬に感謝のキスを贈った。
とたんに、リカルドの浅黒い顔が染まり、眼が泳いだ。 その様子を見たジリアンは、ぴんと来た。 たぶんリカルドは、スザンナに好意を持っているのだろうと。
フランシスは、粗末な小屋の中を見回していた。 ジリアンは、そんな無遠慮なことはせず、泣き止んできょとんと見つめている巻き毛の赤ん坊に微笑みかけた。
「モルト・ベーラ」
とても綺麗、と、知っている数少ないイタリア語から引っ張り出して言うと、スザンナのおびえたような表情が和らぎ、白い歯がこぼれた。
リカルドが通訳したスザンナの打ち明け話は、哀れなものだった。
レンツォは酔って彼女を誘惑し、逃げられそうになって無理に襲ったという。 それだけでも最低なのに、子供ができた時も絶対に自分のせいだと認めなかった。 他の男の子を押しつけるな! と怒鳴り、身持ちの悪い不良娘だと母に言いつけて、涙金で屋敷から追い払った。
ジリアンは苦りきって呟いた。
「絵にかいたような悪党ね」
フランシスは、ギシギシ言う椅子に寄りかかったまま、天井を見上げた。
「帰ってくる途中で襲って、裸にして木にぶら下げてやるか」
「面白いけど、パオロの話だとレンツォは運動好きで、フェンシングが得意なんですって。 おまけにピストルの腕もいいって。 兄さんが返り討ちされたら大変だから、やめておいて」
「ますます嫌な男だ」
フランシスは渋面を作った。
肉体派のレンツォは、翌日屋敷に戻ってくる。 彼がどう出るか見極めてから、改めて作戦を練ろうということで、ひとまず話は終わった。
スザンナは、陽気な兄妹に好感を持ったらしく、赤ん坊を抱いたまま戸口まで見送りに来た。 フランシスは、彼女と子供に笑顔を向けてから、さりげなく体の陰に隠して、小さな袋をリカルドに渡した。
「軍資金だ。 君と彼女で分けてくれ」
リカルドは目をぱちぱちさせて、フランシスの顔を見上げた。
「こんなことまでしていただいては……」
「僕達は真剣なんだよ。 妹の一人を色魔から救うためだ。 ぜひ協力してほしい」
フランシスは大真面目に答えた。
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