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その53
哀れなスザンナ?
ジリアンは思いっきり目を丸くして、リカルドの反応を見ながら、ぎこちなく尋ねた。
「その人、もしかして、レンツォさんの……」
リカルドが深く頷いた。 あまり大きく頭を振ったため、載せた白いカツラが前に落ちそうになった。
「そう、彼女が犠牲者なんですよ。 去年まで、ここで小間使いをしていたんですが、かわいそうに、僅かな金で追い払われて、赤ちゃんの服も満足に買えない。 ひどい状態です」
怒りで、ジリアンの眼が細まった。
赤ちゃんですって? 子供までいるのに、なんの面倒も見ないって、いったいどういうクズ男なの?!
「エミリア夫人は? 知らん顔?」
リカルドは一歩退き、激しく手を振った。
「奥様に言いつけるなんて、とんでもない! レンツォ様はお母さん子ですから、奥様に知られるのを何より恐れていらっしゃいます。 告げ口なんかしたら、すぐクビです」
「へえ」
ジリアンの口の端が、いたずらっぽく上がった。
「ねえ、リカルド」
「はい?」
「スザンナさんに、会わせてもらえるかしら」
リカルドは、きょとんとした。
「お嬢様が?」
「ええ、私が。 あなたが通訳してくれればありがたいんだけど」
「それは喜んでやりますが、なぜわざわざスザンナに?」
「二人の気の毒な女性を助けたいの。 後は彼女に会ったときに詳しく話すわ。 兄も仲間に入れるから」
それから、ジリアンは急いで付け加えた。
「あなたに迷惑はかけません。 誓うわ」
リカルドは小首をかしげて微笑した。
「レディ・ジリアン。 僕はお嬢様を信じますよ。 スザンナは村外れにいますから、午後にでもご案内します」
「ありがとう」
ジリアンは、心から言った。
リカルドと別れると、ジリアンは急いで兄のフランシスを探しに行った。
彼は、西の庭に出て、ローンボールに似たイタリアの球投げ競技をやっていた。 参加しているのはパオロともう二人の青年で、彼の友達らしかった。
ヘレンとマデレーンは暖かそうなコートにくるまって、傍の白い木製の椅子に座り、楽しそうに見学していた。 ジリアンが近づくと、へレンが横の椅子からショールとレティキュールを取って場所を空けた。
「来たわね。 さあ坐って」
「面白いわよ。 この遊びのこと、こっちではボッチェって呼ぶらしいわ」
マデレーンが、転がる球を熱心に目で追いながら言った。
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