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表紙

手を伸ばせば その52


 荒っぽいことを色々話し合ったものの、フランシスはまだ大学生だし、ジリアンにいたっては十代半ばの少女にすぎなくて、本気で計画を実行するのは難しそうだった。


 それでも、翌日の午前、朝食が済んで昼までにはまだ時間があり、雇い人たちも一息つく十時過ぎに、ジリアンはリカルドを探しに行くことにした。
 小さなケープのついたメリノの服を身にまとい、さりげなく廊下を巡り歩いていると、きちんと海老茶色の制服を着て、金色のバックルを白い靴下に光らせたリカルドが、銀の盆を数枚重ね持ちして食器室から出てくるのを発見した。
 見つけた!
 ジリアンは喜んで、仔鹿のように跳ねながら彼に近づいた。
「こんにちは、リカルド」
 盆の横から顔を出すと、リカルドはにっこりした。
「これはこれは、レディ・ジリアン」
「レディはつけないで。 友達でしょう?」
 リカルドは目を半分閉じて、首を振った。
「いや、そこまで馴れ馴れしくすることはできません」
「そのお盆、どこへ持っていくの?」
「調理場です。 横に、ええと、配膳室があるので」
 彼は言葉に迷ったあげく、配膳室をイタリア語で発音したが、意味は通じた。
「一緒に歩いていい? ちょっと訊きたいことがあるの」
「もちろん」
 そう言って、リカルドは軽くウインクを返した。
「退屈な仕事が楽しくなります」


 リカルドは歩みを緩くして、ジリアンがついて来やすくした。 ゆっくり廊下を進みながら、ジリアンは彼に尋ねた。
「ここの長男のレンツォさんは、派手に遊ぶ人だって、本当?」
 リカルドは、小さく肩をすくめた。
「まあ、誰でも知ってることですね」
「あの」
 何て訊けばいいだろう。 育ちのいいジリアンは、いざとなるともじもじしてしまった。
「言いにくいんだけど、もしこのお屋敷の中で……」
 不意にリカルドが足を止めた。


 先に進む形になったジリアンは、驚いて言葉に詰まってしまった。
「どうしたの?」
 濃い睫毛の下の鋭い眼が、ジリアンを見つめた。
「誰から聞きました?」
 ジリアンは当惑した。
「え? 誰からも聞かないけど、ただ……」
 話を途中で遮って、リカルドは深刻な声で言った。
「お気持ちはわかります。 お嬢さんは優しいから、同情なさっているんでしょう? あの哀れなスザンナに」








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