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手を伸ばせば その51


 食後、紳士たちはビリヤードルームに行ったが、フランシスはジリアンとしめし合わせて談話室に入り込み、マデレーン救出作戦に取りかかった。
 ジリアンは、猫足のついたチーク材の丸椅子に座り、揃いの丸テーブルに筆記用具を載せて、思いついたことをメモし始めた。
 フランシスのほうは、広い部屋を行ったり来たりしながら、アイデアをひねり出そうと苦心していた。
「戻ってくる途中に、レンツォを村の若い奴に襲わせるってのはどうかな?」
 ペンを置いて、ジリアンは首を振った。
「怪我をして同情されるだけよ。 うっかり殺しちゃったら大変だし」
「まあ、そうだな。 じゃ、酔いつぶして、娼婦と結婚させちゃうっていうのは?」
「この辺の娼婦に知り合いがいるの?」
 フランシスは天を仰いだ。
「いない」
「言葉も通じないしね」
 ジリアンは溜息をつき、メモ用紙に、尻尾と角のついたレンツォを落書きし始めた。
 フランシスは、また部屋を一周した。
「いっそ誘拐して、港から船に乗せて軍隊に放り込むってのは?」
 ジリアンの手が止まった。
「すてき! でも、準備する時間が足りないわ。 せめて到着まで一週間あったらねえ」
「ほんとだよ」
 フランシスはポケットから葉巻を取り出し、吸い口を噛み切って火をつけた。
「あれ、フランク、煙草なんて吸ってた?」
「さっきパオロに貰ったんだ。 彼は兄貴とちがって話がわかる。 頭もいいしね」
 そう言って扉の横に寄りかかり、一吸いしたとたんに咳き込んだ。
 笑いそうになって、ジリアンは急いで顔を下げた。 悪ぶっているが、フランシスが煙に慣れていないのは一目瞭然だった。
 指の間で細い葉巻をブラブラさせながら、フランシスはさりげなく話題を戻した。
「やっぱり、あいつをマディの前から消すのは難しいかもしれないな。 だとすると、婚約をぶっ壊すしかない」
「他に女性がいるとか暴露〔ばくろ〕して?」
「沢山いるんだよ、噂では」
「でも、確実な証拠を見せないと」
「そうだな」
 二人は困って、顔を見合わせた。
 そのうち、フランシスの目が輝き始めた。
「証拠がなけりゃ、作ればいいんだ!
 どうせレンツォのことだ、この屋敷でも女なしじゃいられないだろ。 連れ込んでる現場を押さえれば、アルディーニ伯爵だって、うちの母親だって、縁談のゴリ押しは止めるはずだ」
  ジリアンは立ち上がった。 兄の言葉で、思いついたことがあった。
「レンツォの好みは、聞けばわかるかもしれない。 ここの従僕と知り合いになったの。 リカルドという人で、英語がうまいのよ」
「そりゃいい。 レンツォはアラビーソ家で小間使いに手を出したんだそうだ。 だからここでも、かわいい小間使いか誰かに頼んで計画に引き込めば」
 フランシスは、もう成功した気になって、妹の両手を取ると踊り出した。
「お手をください、綺麗なお嬢さん。 さあさあレンツォのベッドへどうぞ!」
「フランク、立派な悪知恵ね!」
 二人はくすくす笑いながら、はしゃいで踊りまわった。








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