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手を伸ばせば その45



 ヘレンとマデレーンは面白そうな顔をしていたが、母のジュリアは気だるそうに首を倒して、あっさりと断った。
「よしてくださいな、カタリーナ叔母様。 この子は調子に乗りやすいんですから。 イタリアに置いていくつもりはありません。 英国できちんとしつけて、地道に結婚させます」
 ほっとしたのかがっかりしたのか、自分でもよくわからないまま、ジリアンはできるだけ無邪気な表情を作って、母に頼んだ。
「一人でお屋敷の中を見て回っても、話し相手がいないとつまりません。 お姉さまたちと一緒に行きたいわ」
 丁度そのとき、ロココ調の脇机に置かれた銀の時計が、涼しい音を立てて鳴った。
 ジュリアは物憂げに、カウチから身を起こした。
「もう五時だわ。 遊び回るのは一時間だけよ」
「はい、お母様」
 三姉妹は声を揃えて答え、母の気が変わらないうちに、大急ぎでドアを開いた。


 廊下に出たとたん、ジリアンは台の下からコートを引っ張り出して、マデレーンに押しつけた。
「ハーバートが来てるわ」
 ほがらかに告げられて、マデレーンはみるみる顔を輝かせた。
「ほんと?」
「もちろんよ。 連れてってあげる。 さあこっち」
 とたんにヘレンが難しい表情になって、二人の前に立ちふさがった。
「待ちなさい」
「待てない」
 マデレーンより先に、ジリアンが抗議した。
「ハーバートは寒い庭園で待ってるのよ。 凍えちゃうわ」
「親に隠れて、こっそり会うなんて」
「あら、いつからお姉さまはガチガチの道徳派になったの? 一昨年に村のお祭で、貸し馬車屋のジャックと踊りたくて、裏口から抜け出したとき、私たち手伝ったでしょう?」
「あれとこれとは」
「同じよ。 違うと言うんなら、もうお姉さまは仲間と認めないわよ」


 おろおろするマデレーンを間に挟んで、ヘレンとジリアンは数秒間睨み合った。
 ヘレンのほうが先に目を逸らし、体を斜めにして道を作った。
「いいわ。 でも三十分だけよ」
「ありがとう、二人とも」
 マデレーンはジリアンの頬に感謝を込めてキスし、ヘレンにも一杯の笑顔を残して、妹とバタバタ走り出していった。








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