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その33
三人は、ひっきりなしにしゃべりながら玄関広間を通過した。 コリンはジリアンの籠に入っていたアップルタルトを両手に持って頬張っていたし、リュシアンのほうはキャンディをおいしそうに噛み砕いて、黒い巻き毛の先に銀色の粉を飛ばしていた。
賑やかな声を聞きつけ、急いでクラバットを直してから書斎を出てきたエンディコットは、二人の生徒の有様を見て眉をしかめた。
「物を食べながら歩いたり話したりするもんじゃない、君達」
「はい、先生」
表面はおとなしく答えて、二人は食べかけを籠に戻した。 どうせすぐ解禁になるのだから、無理に反抗する必要はない。
エンディコットは、少年たちに挟まれているジリアンに温かく微笑みかけた。
「いらっしゃい。 しばらくぶりですね」
「はい。 荷造りが大変で」
「そうか、もう出発なんだ」
ふと寂しげな表情が、エンディコットの顔をよぎった。
「冬のイタリアって、どうなんでしょうね? 一昨年、従兄弟がローマの謝肉祭に行ったんですが、大変な乱ちき騒ぎだったと言ってました。 同じキリスト教徒とは思えないと」
「うわー、絶対行ってみたい」
乱ちき騒ぎの意味もわからずに、コリンが目をきらきらさせて叫んだ。 ジリアンは横に視線を動かして、フランス窓のすぐ外の真っ白な前庭と、引き続いて広がるなだらかな平原を見た。 これこそが、故郷だ。
無意識のうちに、言葉がこぼれ落ちた。
「暗くてじめじめした季節だけれど、だからこそ暖炉を思いきり焚いて、ブディングを食べて、家族みんなで楽しむ時間が貴重ですよね。
コリンにリュース、今の私には、あなたたちのほうが本物の家族みたい」
「そういえば、ラムズデイル家がここに引っ越してきて以来、一度もご両親をお見かけしたことがないですね」
何気ない言い方だったが、その言葉はジリアンの胸に小さな針のように突きささった。
「母はこの土地が嫌いで、めったに戻ってきません。 そのせいか、父も最近はちょっとしか来てくれなくて」
「今はご在宅なんでしょう?」
「ええ」
ジリアンは溜息を押し殺した。 根っから貴族的な父は、自分のほうから商人の隣人を訪ねることはないだろう。 悪気があるのではなく、彼にとっては身分の差は絶対なのだ。
ぎこちない間があいた。 リュシアンが体を動かし、じれったそうに声を出した。
「あっちの遊び部屋に行こう。 ここ寒いよ」
「あまり長居はできないの。 あと一時間もすれば暗くなるし、荷物の点検が残ってるから」
「じゃ、僕達が送っていく!」
夕方でも外に出る口実を思いついて、コリンの声が弾んだ。
エンディコットは、駄目だとは言わなかった。 代わりに自分も付き添っていくと言い、ジリアンと三人で雪投げしながら行こうともくろんでいた少年たちをがっかりさせた。
やがて、帽子とコートと手袋で武装した一団は、いつもより早く暗くなりかけた曇天の下に繰り出した。
気温がどんどん低くなっているらしい。 ジリアンが来たときには柔らかかった積雪が、もう凍り始めていた。 木陰から顔を見せた灰色兎が、リュシアンと目が合ったとたんに逃げ出したので、少年たちは喚声を上げながら追っていった。
「あいつに雪玉が当たったら十点!」
「捕まえたらニ十点だ!」
「捕まりっこないよ!」
二人がみるみる離れていく。 ジリアンは心配になって、後を追おうとした。
その瞬間、凍った水溜りに靴を取られ、大きくすべった。 そのままだと、確実に相当痛い尻餅をつくところだったが、エンディコットの両腕が、寸前で受け止めた。
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