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その32
翌日の午後から、荷造りが始まった。
従僕やメイド、小間使い、庭番のジョンにまで手伝わせて、大きなトランクや衣装箱、帽子箱が山のように運び出された。
雨に当たるといけないので、荷物はいったん玄関近くの広間に置かれ、二日間で床の半分を占領した。
出発の前日に、ジリアンはシルバーリーク・アベイに出向いて、コリン達と別れを惜しんだ。
夜から降り始めた雪がようやく止んだ午後で、地面は白く染まり、勇ましく歩いていくジリアンの背後には、真新しいブーツの足跡が二列に並んで点々と続いた。
少年のどちらかが見張っていたのだろうか。 ジリアンが三叉路の一番右に入ってすぐ、遠くから歓声が響いた。 そして間もなく、広々した前庭に子供たちが走り出てきた。
「いらっしゃい!」
「三日も来なかったから、寂しかったよ!」
「そう? じゃ、しばらくはもっと寂しくなるわね。 明日にイタリアヘ出発することになったの」
「えー〜〜!」
コリンとリュシアンは、同時に失望の声を張り上げた。
「もう行っちゃうのー?」
「一緒にクリスマスしたかったのにな」
「私もよ」
家族の絆をもっとも感じるクリスマス・シーズンを、外国であわただしく過ごすなんて、ジリアンも望まなかった。 だが、クリフォード家で社交の実権者は母だ。 さすがの父でさえ、母のジュリアが旅行したいというのを止めることはできなかった。
二人の少年の肩を抱いて、ジリアンは言い聞かせた。
「室内ゲームと海賊の地図、それに樹上の家の作り方を書いた絵本を持ってきたわ。 冬の間に計画を立てて、来年の春にみんなで建てましょうよ」
「すげー」
悪い言葉を使ってはいけないと言われたのを忘れて、コリンが叫んだ。
「僕達だけの家がほしいって言ったの、覚えててくれたんだね!」
ジリアンの抱えてきた本を貰うと、リュシアンは玄関に歩きながらもう中を開いて、熱心に絵を眺めた。
「お、見て見て! 樽に入って滑車で登り降りできる装置だよ。 ほんとにスゲー!」
「これならさ、冬でも地下室で作れるよな。 やってみようぜ」
「うん!」
わくわくしている少年たちに、ジリアンは訊いた。
「エンディコット先生は、クリスマス休暇を取るの?」
リュシアンが、絵を食い入るように見つめながら、上の空で答えた。
「ううん、父さんが、じゃなかった、お父様が留守番を頼んだの。 だから冬中ここにいるって」
「留守番ていうより、僕達の見張り役だよね」
コリンが合いの手を入れた。
「じゃ、先生も巻き込んだら? 器用だから、昇降機を作るとき手伝ってもらえるかも」
「うん。 ジリアンから頼んでもらえる?」
リュシアンが、無邪気な丸い眼を上げて、ジリアンに訴えた。
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