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表紙

手を伸ばせば その20


 長いはずの八月は、羽が生えたように過ぎていった。
 秋には、ラムズデイル家の兄弟のうち、上の二人は新学期で学校の寮へ行く。 九月初めにはもう出発しなければならないのがパーシーで、彼はウェストミンスター校に編入が決まっていた。


 マデレーンも、今年の秋からフィニッシング・スクール(=お嬢様学校)へ入学することになっている。 そこは九月の末に学期が始まるため、付き添いとしてマデレーンを連れて行く予定のラモント夫人は、早めに出発してロンドンで買い物を楽しもうと張り切っていた。
 しかし、当のマデレーンは浮かない顔だった。 大好きな新しいドレスが買えるわよ、とジリアンが慰めても、姉の憂いは晴れなかった。
「いやだわ。 私が望んだのではないのに。 他の生徒はたぶん、おしゃれな人たちばかりで、私なんかイモ扱いよ、きっと」
「そうだとしても、初めだけよ。 勇気を出して話しかければ、マディならすぐ友達ができるわ」
「そうだといいんだけど」
「それに、学校のパーティーとか知り合いの招待とかいろいろあるんでしょう? すてきな男性にめぐり逢えるかもよ」
「別に、逢いたくないわ」
 いやにきっぱりと、マディは言い切った。


 ハーバートとマディは、夏の間に特に親しくなったようには見えなかった。 普通の友人として、仲良く遊んではいたが、溜息をついて見つめあったり、二人きりでどこかへいなくなるようなことは一切なく、ただ初めのうちの気詰まりが消えただけだった。
 一方、ジリアンは年下二人の女神様として、活発に動き回っていた。 特にコリンは、小さなナイトとしてジリアンに付きっきりで、ゲームのグループ分けでは必ずジリアン組に入れるよう画策した。
 問題はパーシーだ。 慈愛と純潔の騎士パーシヴァルの名前を貰っているにしては、彼は荒っぽく、危険な存在だった。
 小さな崖から最初に飛び降りたのも、手作りの弓でクリフォード家の森番小屋の煙突を破壊したのも、パーシーだった。 彼が危ない冒険をするたびに、ハーバートは青筋立てて怒ったが、効き目はなかった。 他の子に無理強いするわけではなく、むしろ庇う性格なので、自己責任だといわれるとそれ以上強く叱れなかったのだ。


 パーシーをいくらかでも思いとどまらせることができるのは、ジリアンだけだった。
 彼女は、たしなめるのではなく、からかって止めさせた。 その度に、パーシーはものすごく不機嫌になるのだが、プイと立ち去っていっても、そのうちいつの間にか遊びに戻ってくるのが常だった。








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