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手を伸ばせば その18


 『柳の小道』と呼ばれている、クリフォード邸の正門に通じる道に入るところで、ジリアンとマデレーンはラムズデイル兄弟に別れを告げた。
 最初にジリアンが立ち止まって、ハーバートに微笑みかけた。
「それじゃ、ここで失礼します」
「お宅まで送りたいんですが」
 左へ緩く曲がる道の奥を透かし見て、ハーバートは名残り惜しそうに応じた。
「この辺でお別れしたほうがいいですね。 弟たちを早く家に連れ帰らないと、また何を始めるかわからないので」
「もうお荷物は全部運びこまれたでしょうね」
 マデレーンが夢見るように言った。
「温室の花をお送りしますわ。 お引越し祝いに。 お母様はどんな花がお好きかしら?」
「母は死にました」
 愛想のない声が、背後から答えた。 パーシーだった。
 困った顔になったマデレーンの代わりに、ジリアンが朗らかに声を出した。
「じゃ、お父様の好きな花は?」
「親父は花なんかに興味ないよ」
「それでも部屋には飾るでしょう?」
 ジリアンは負けずに言い返した。
「季節の花を見つくろって、明日、園丁のカービーに持っていってもらうわ。 ちゃんと受け取ってね」
「もちろんですよ。 ありがとう」
 ハーバートが急いで答えた。



 ひとしきり手を振り合って別れを惜しんだ後、少年たちは賑やかに本道を遠ざかっていった。
 マデレーンがぼうっとその後ろ姿を見送っているので、ジリアンは二度声を掛けたが、無視された。
 終いに、とうとうジリアンは姉の肘を強制的に取って、家のほうに向きを換えさせた。
「早く帰りましょう。 気温が下がってきたわ」
 マデレーンは傘を畳み、歩きながら小さな溜息をついた。
「ねえ、ジリー」
「なに?」
「私、はしゃぎ過ぎだった?」
 ジリアンはまばたきした。
 確かに、マデレーンの様子は普段とは違っていた。 興奮しやすかったし、秋の天気のようにどんどん気分が変わっていた。
「はしゃぐというより、あがっているような感じだったわ」
「やっぱりジリーにはわかってたのね」
 マデレーンは、また溜息を漏らした。
「ねえジリー、一目惚れって、信じる?」







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