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手を伸ばせば その17



 ようやく夕日が傾くころには、両家の子供たちはすっかり打ち解けて、ずらっと手をつないで家路に着くほどになっていた。
 リュシアンはマデレーンに、そしてコリンはジリアンにべったりだった。 ハーバートは末っ子のリュシアンの手を引いていたので、横に並んだ五人の影が、淡く灰色に染まった夏の草原の上に長く尾を引いた。
 パーシーだけが例によって、一人離れていた。 少し後ろを歩きながら、彼は特にコリンを集中的にからかった。
「女二人と手つないじゃって、ママと乳母に挟まれた鼻ったれの赤ん坊みたいだぞ」
「誰が乳母よ」
 振り向いて、ジリアンが元気に言い返した。
 すかさずコリンも尻馬に乗った。
「そうだよ、こんな綺麗な乳母さんなんていないよ」
 パーシーはそっぽを向いて鼻をならした。 コリンはいきり立った。
「パーシー兄さんなんかあっち行っちゃえ! パーシーが何て言ったって、ジリーは世界一きれいなんだから。 僕、大きくなったらジリーと、け、結婚するんだ」
 そして、きっぱり断られないうちに、印象的な茶色の目に精一杯の憧れをたたえて、横のジリアンを見上げた。
「ね? 待っててくれるよね?」
「あほらしい」
 苦りきって、パーシーは歩速を緩め、ずいぶん後ろに取り残されてしまった。


 十歩ぐらい行ったところで、ジリアンはコリンのほうに身をかがめ、気になっていた事を訊いてみた。
「パーシーは私の悪口言ってたの?」
 コリンはかわいらしく首をかしげた。
「いやー悪口っていうほどひどくはないけど」
「じゃ、何て?」
「ちっとも綺麗じゃないって」


 ジリアンは体をまっすぐ起こした。
 傷ついたとは思いたくなかった。 だが、ちっとも、という言葉にはムカッと来た。
 なによ、自分の顔がいいからって、人を見かけだけで判断して。
 だから美男は嫌いだ。 うぬぼればっかり強いんだから。 ジリアンは気を取り直すと、コリンに思いっきり笑顔を見せた。
「あなたは私が綺麗だって言ってくれたわね」
 コリンは、顎が胸につくほど大きく首を上下させた。
「うん! だってほんとに素敵だもの」
「じゃ、あなたが大きくなるまで待ってあげるわ。 あなたのほうが他にもっと好きな人ができるかもしれないけど」
「そんなことないよ!」
 まだ生まれてから十二年しか経っていない少年は、確信を持って痩せた胸を反らしてみせた。








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