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手を伸ばせば その15



 ジリアンはコリンと先を行き、マデレーンはハーバートと並んで歩いた。
 残りの二人は、釣竿と、取っ手をつけた空き缶を抱えて、後からぼそぼそとついてきた。


 道端に野スミレの群落を見つけると、コリンは素早く身をかがめて摘み、小さな束にしてジリアンに渡した。
 驚いて、ジリアンは小さな騎士に微笑みかけた。
「ありがとう」
「あなたって話しやすいね」
 コリンは金褐色の柔らかい前髪を掻きあげながら、そばかすの散った顔で微笑んだ。
「パーシーの言ったのと全然ちがう」
 ジリアンはその名前にすぐ反応した。
「パーシーは何て言ってたの?」
「侯爵令嬢なんて気取ってて冷たいんだよって」
「なんでそんなこと?」
 勝手な先入観だ。 弟に妙な情報を教えこまないでほしい。 しゃくにさわったジリアンが、だいぶ後ろにいるパーシーを振り向こうとすると、コリンが続きを言った。
「お姉さんは、少し当たってるけど」
 ジリアンは苦笑した。
「マデレーンは気取ってるわけじゃないの。 わりと人見知りで、あなたたちに初めて会ったから緊張してるのよ」
 ジリアンの代わりに、コリンが背後を振り返った。
「人見知りしてないよ。 ハーブとぺちゃぺちゃ話してる」


 何ですって?
 ジリアンは愕然として、大きく体を回した。 その目に、ハーバートと腕を組み、嬉しそうに身を寄せている姉の姿が飛び込んできた。
 あろうことか、日傘まで持たせている。 なんとなれなれしい。 ジリアンは足を止め、二人が追いつくまで待つことにした。
 すると、肝心の二人ではなく、その背後にむっつりと従っていたパーシーとリュシアンが、いきなり足を速めて追いついてきた。 そして、パーシーが手に持った長い釣竿をハーバートに押しつけた。
「そんな物より自分の釣竿持てよ」
 あいかわらずぶっきらぼうな口調だ。 だが初めて、ジリアンは彼の強引さをありがたく思った。


 ハーバートは顔を赤らめ、傘をマデレーンに優しく返して、釣竿を受け取った。 二組のきょうだいは大きな塊を形作って、のんびりと草原の小道を歩いていった。
 周囲が明るくなるような金色の花を咲かせたアキノキリンソウの茂みを過ぎた辺りから、灰色に広がる石切り場が視野に入ってきた。 石材を切り出した跡が層を成し、ごつごつした城の廃墟に似て見える。 来慣れた場所なので、ジリアンは迷わず無人の番人小屋に入り、棚にいつも置いてある煙草盆の中から黄燐マッチを探し出した。


 コリンとパーシーが枯れ枝を集めてきて、間もなく焚き火が出来上がった。 夏の太陽は、午後遅くなってもまだ上空高くにかかっていたが、気温は下がり気味で、一同は喜んで赤々と燃える火を囲んだ。

 








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