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手を伸ばせば その14


 ラムズデイル兄弟は、マデレーンには刺激が強すぎるようだ。 ジリアンは、早々に引き上げることにした。
「私たちはもう少し散歩することにします。 それじゃ」
「ねえ、僕も行っていい?」
 ひときわ高いコリンの声がした。 人懐っこい薄茶色の瞳が、熱心にジリアンを見つめた。
「夕方まで家に帰ってくるなって言われてるの。 引越しの邪魔だからって」
 困ったジリアンは、マデレーンのほうを見た。 姉は目を伏せて、パラソルの先で草を掻いている。 決断しかねている様子は、まんざらでもない感じだった。
 マデレーンの反応をよく知っているジリアンは、ちょっと驚いた。
――あら、あんなにキャーキャー言ってたわりには、この子たちを嫌いじゃないのね――


 そこへ、上着を脱いで清潔な白いシャツ姿になったハーバートが、急ぎ足で戻ってきた。
「コリン、我がまま言うんじゃない」
「いいわよ。 少しならご近所を案内してあげるわ」
 腕白な弟を三人も監督するのは大変だろう。 ジリアンはハーバートがヒヨコを追いかける心配性の母鶏に見えてきた。
「ところで、家庭教師のエンディコットさんは?」
 ハーバートは目をしばたたかせた。
「あの人にも会ったんですか? 実は」
 声が低くなった。
「彼のコートのポケットに、リュースが、つまりリュシアンですけど、採ってきた蛙を入れたんです。 特に太ってて水気の多いやつを」
「それで?」
 噴き出すのをこらえながら、ジリアンはさりげなく先を促した。
 ハーバートは顔をしかめた。
「知らなかったんですよ。 エンディコットさんが両生類アレルギーだってことを。
 ポケットが動くんで、触って取り出したとたん、パーッと全身にじんましんが広がって」
「それで僕達、追い出されたんだよ」
 無邪気にコリンが締めくくった。
「エンディコットさん、顔が羽根をむしった鶏みたいになって、面白かったよ」
「こら!」
 ハーバートはあくまでも笑わなかったが、横でマデレーンが口を抑えているのが見えた。 ジリアンもにやにやしながら、もうすっかり元気になって川べりの岩に腰掛けているリュシアンを眺めた。
「では、溺れかけたとわかったら、もっと怒られるわね。 近くに石切り場があるの。 あそこなら火を炊いても怒られないから、焚き火をして服を乾かしません?」
「それはありがたい」
 心からほっとした様子で、ハーバートは礼を言った。







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