表紙

水晶の風 52


「恐喝の常習犯か?」
「そう。 雑誌記者の佐藤則行と組んでね」
「暴力団とは?」
「そっちとは仲間じゃなかった。 ピンハネされるから損だと思ったんでしょ。 ただ、仲間みたいな噂流して、身を守ってたってのはある」
 不愉快な女だ。 瓜川たまきに、和基は深い嫌悪を感じた。
「動機は? 金だよな?」
「うん。 それと、威張りたかったからじゃない? 権力欲っていうのかな。 お前の弱みは私が握ってんだからね、みたいな」
 一呼吸置いて、悠香は凄みのある声になった。
「許せなかった。 あのスナックの土地、お父さんに泣きついて、安く譲ってもらったんだよ。
 それなのに、感謝するどころか、開店祝いに行ったお父さんを酔いつぶして、他の土地の権利書まで盗んで。
 そのこと、お父さんが生きているうちは全然言わなかったんだ。 まあ盗まれたの、大変でしたね、とか平気で言っちゃってさ。 たぶん、騙してるのが楽しかったんだろ。
 それで、お父さんが亡くなって麻耶ちゃんの代になったら、急に持ち出してきたんだよ。 手形の不渡りを出した人から権利書を預けられた、すぐ現金に換えたい、なんて言い出して。 ほんとウソばっかり!」
「長期計画だな」
「ていうより、麻耶ちゃんに嫌がらせだと思うよ」
「なぜ?」
「白雪姫」
「はあ?」
 なぜ突然おとぎ話が出てくる! 話の飛び方に、和基はついていけなかった。
「なんだそれ?」
「白雪姫と継母の関係。 瓜川たまきは、お父さんをナンパして、うちの後妻になりたかったの。 でも、お父さんは親切にしたげただけで、そんな気持ちはなかった。 お父さんの理想は、どこまでも優子さん。 つまり、麻耶ちゃんのお母さんで、麻耶ちゃんそっくりだったの」
 鏡よ鏡、どちらが美しい?――そういうことか。 町一番の美人は自分だと、瓜川たまきは思っていた。 だが、上には上がいた……
「顔だけじゃないよねー。 態度とか性格とか、いろんなことで好かれるんだもんね。 麻耶ちゃんはみんなに人気があった。 それがあの女には我慢できなかったんだ」




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背景:硝子細工の森
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