表紙

水晶の風 51


 和基は、深く息を吸い込んだ。 それから、寝室へ移動してドアを閉めた。
「アリバイ作りをしたのは、麻耶さんのほうだろう? 僕を使って」
「う……ん」
 返事が中途半端になった。
「よそ者を使おうって言ったのは、私。 町の人はみんな顔見知りで、麻耶ちゃんが誘ったりしたら、即結婚か! なんて騒がれちゃうから。
 でもまさか、検事さん引っかけてくるとは思わなかったよ」
「大誤算だな」
 和基は苦々しく言った。 悠香は笑いを含んだ声で続けた。
「それもさ、ただの法律バカならいいけと、けっこうまともに頭いい人でさ」
「君こそ頭回るし、度胸も相当なもんだよ」
 皮肉でなく、和基は答えた。
「麻耶さんは瓜川たまきに脅されていた。 たぶん土地の権利書のことでだろう。
 だから君は大胆にも、瓜川に近づいて盗み出してやろうと決めた」
「もとはあいつが盗んだんだよ! お父さんを酔い潰して、どこにしまってるか聞き出して」
「だから、君はまず麻耶さんと喧嘩したふりをして、家を飛び出して瓜川に頼った。
 彼女の家に、盗聴器か何か仕掛けたんだろう? それで、権利書の隠し場所を探り当てた」
「正解!」
 悠香は妙に楽しそうだった。
「うちからビスクドールを持ってって、麻耶ちゃんから盗んできてやったって言ったの。
 ビスクドールって知ってる? 昔のフランス人形なんだけどね、ほんの短い間しか作られなかったからすごく価値が高いんだ。
 瓜川のおばさんは骨董マニアだから、喜んでベッドルームに持ってくと思った。 そのとおりになったよ」
「彼女、大事な書類を寝室に隠してたのか?」
「そう」
「なんで銀行の貸し金庫に入れないんだ? 危ないじゃないか」
 悠香はケラケラと笑った。
「入れたほうが危ないよ。 瓜川たまきはね、手当たり次第に脅迫してたの。 Y市には貸し金庫のある銀行は一つしかないんだけど、そこの支店長からも金巻き上げてたんだ。 だから預けられっこないってわけ」
 和基は唖然とした。




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