表紙

水晶の風 50


 いたずらか? と一瞬思った。
 だが次の瞬間に、どこかで聞いた声だと気付いた。

 聞き覚えのある声は、ほとんど間を置かずにこう言った。
「月に一回かけることにしてたんだ。 今は番号ポータビリティー制でしょ? 前の壊したか取り替えたかしたとき、元の番号のままにするんじゃないかなと思ってさ。 でも、買い換えるのにすごく時間がかかったね」
 このしゃべり方…… 愛らしいが小生意気な顔が、パッと脳裏にフラッシュした。
 喉の奥で咳払いして、和基はわかりきったことを一応尋ねた。
「菱野悠香さん?」
「そう」
 覚えていて当然という口調だった。 和基は紋切り型で訊いた。
「何か用?」
「うん」
 悠香は、あっけらかんと答えた。
「話があるんだ」
 和基は首に、嫌なしびれを感じた。
「今はちょっと」
「いつならいい?」
 ちっ、答え方を間違えた――顔をしかめて、和基はそっけない声になった。
「君とはあまり……」
「犯人の告白、聞きたくない?」

 気付くと、母が荷ほどきの手を休めて、こっちを見ていた。
 緊張した気配があるのだろうか。 和基は反射的に横へ体を回して、声のトーンを落とした。
「電話で言うことじゃないだろう」
「にゃはっ」
 とたんに悠香は、派手に笑った。
「やっぱりだ。 わかってたんだ!」
「そうじゃないかと疑ってはいたよ」
「じゃ訊くけど、どうやって実行したと思う?」
 立場があべこべだ。 自然、和基の声が厳しくなった。
「知らないね。 僕の立場を考えろよ。
 もうそっちの担当検事じゃないから、この話は聞かなかったことにする。 それじゃ」
「待って!」
 突如、悠香は真剣になった。
「やったのは私一人だからね! 麻耶ちゃんはアリバイ作りに協力してくれただけ」




表紙 目次文頭前頁次頁
背景:硝子細工の森
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送