表紙

水晶の風 33


 和基は、入って左側の二つ目にある応接室に通された。 今時めずらしいきちんとした客間で、レースをかけたソファーと椅子が整然と並び、対になったオークの飾り棚が白い壁を飾っていた。
「古風でしょう?」
 椅子に腰かけて、麻耶は言い訳めいた口調になった。 和基は落ち着いた雰囲気が好ましいと思い、そのまま口に出した。
「今風のもいいけど、こういった伝統を感じさせる部屋は居心地がいいね」
「はあ? 若オジン?」
 突然、思わぬ方向から、聞き覚えのある子供っぽい声が耳に突きささった。 振り向いて入口を見る前に、和基にはその声の主が誰か予測がついた。
――うわ、ここにいるのかよ――
 たしかアパートに住んでいるはずではなかったか。
 いちおう後ろを向いて確かめると、思ったとおり、派手な模様のジャージを着た悠香がトレイを持って立っていた。 とたんに、和基の気分は二段ほど落ちこんだ。
 ウェイトレスのように気取ってトレイをテーブルに降ろし、紅茶を配りながら、悠香はにやっとした。
「居候だからね、いろいろ手伝わないと。 はい、いらっしゃいませ」
 手伝いというより嫌がらせだろう。 へきえきしながらも、和基は無表情を保った。
「こんにちは。 この間はどうも」
「お世話になりました。 てか、尋問されたんだよね。 ねえ、今でも私が火つけのターゲットだったって思ってる?」
「そういうこともあり得るとは思う」
「くどい言い方」
「悠香」
 低くマヤがたしなめた。 悠香はフンという表情になって、背中をまっすぐに伸ばし、腕を組んだ。
「今度はお姉ちゃんを尋問しに来たわけ? ずいぶん態度違うなあ。 私のときは呼びつけたじゃん」
「ねえ、もういいからちょっと席外してくれる?」
 麻耶が少しきつく言うと、悠香はますますつんつんした態度になった。
「あのさ、検事さんがおどかすから、私びびってここへ戻ってきたんだよ。 ここならいつも誰かいるからさ、万一襲われても助けてもらえるじゃない。 だから」
「やっぱり君、何か知ってるのか? だから怖いんだろう?」
 和基はすかさず問い返した。



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