表紙

水晶の風 23


 内心じりじりしながら待っていたが、その日は一日、警察から何の連絡もなかった。
 夕方、和基はぶらっと立ち寄ったふりをして中央署に行ってみた。 しかし、佐々木は出ていてつかまらなかったし、他の刑事も、顔見知りは和基に挨拶しただけで後は普通に出たり入ったりしていた。 和基に声をかけて、麻耶のアリバイを調べようとする動きなど、全然なかった。

 赴任してきたばかりで、情報を回してくれる知り合いが乏しい。 こちらから直接麻耶に電話しようかと迷っていた翌日の朝、中西が続きの情報を持ってきてくれた。 前日に和基が関心を示したのが効いたらしい。
「あ、スナック・ママの盗難事件ですけどね」
 和基はすぐ顔を上げて、耳を傾けた。
「はい?」
「菱野さんにはアリバイあるらしいです。 泥棒が入ったのは、午後八時前後なんですが、その時間、彼女はお客を案内して城に行っていたという話で」
 和基は注意して中西の表情を伺った。
「その客から裏が取れたんですか?」
 何も知らない中西は、気軽に答えた。
「いえ、相手に迷惑をかけたくないと菱野さんが言うから、直接には。 レストランと資料館の受付、それに確かタクシーの運転手も覚えていたとかで、問題ないですね」
 そこでまた、むらむらと腹が立ってきたらしく、中西は意地悪げな声音になった。
「それにしても、なんでラブリーのママは麻耶さんに濡れ衣着せようとしたんですかね。 罪に落として、あの旧家を乗っ取ろうっていう魂胆かな」
 和基には、もう一つ気にかかることがあった。
「犯行時刻は八時前後と、どうしてわかったんですか」
「ああ、それは」
 中西が愉快そうに説明してくれた。
「被害者はごちゃごちゃと部屋にいろんなものを飾っておくのが好きなんです。 なんとかいうフランスの電気スタンドとか、中国の壷とか。 一階にも二階の寝室にもそんなやつが所せましと置いてあって、そのことを知らない人間だとうっかり引っ掛けちゃうわけです。
 それで、八時ごろに物の壊れる大きな音がして、なんだろうと隣りの住人が覗いたら、二階に電気がパッとついたそうです。 ああ、瓜川さん珍しく店を休んでいるんだな、とその住人は思って、別に怪しまなかった」
「とっさに頭の切れる犯人ですね」
 和基は考えめぐらした。
「音を出してしまったからは、懐中電灯などでこそこそやるより、大っぴらに灯りをつけたほうが疑われない。 それに仕事もしやすい」
「ベテランですかね」
 もう決まったように、中西も相槌を打った。



表紙 目次文頭前頁次頁
背景:硝子細工の森
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送