表紙

水晶の風 18


 翌朝は日曜ということで、しっかり寝坊した。 夢は見ていなかったつもりだが、正午近くなってごそごそ起き出したとき、ちらっと残像が頭をかすめた。
 それは意外にも、作業衣を着た麻耶の姿だった。 農作業でよく見かける深い鍔の、首筋まで覆う帽子を被っていた。
――何想像してるんだ、俺? ――
 可笑しくなって、にやにやしながら和基は洗面所に入った。


 週明けの朝は、予定が決まっていた。 丸由工務店という地元の建設業者に粉飾決算と廃材不法投棄の疑いがあって、立ち入り捜査をすることになったのだ。
 午前八時、市の中央警察の捜査員と共に、和基は牧田社長の自宅へ赴いた。 社屋のほうは藤見検事の担当だった。
 家はなかなかの豪邸で、白大理石の階段を三段上がると八畳ぐらいある広い玄関に通じていた。
 インターホンの短い会話であたふたと出てきた家政婦は、見慣れぬ男たちと差し出された令状にショックを受けて、バタバタと二階へ駆け上がってしまった。 和基たちはまず一階の応接室から調査を開始した。

 暖炉は電気式だった。 和基が引き出すように指示すると、案の定、ヒーターの背後に隠し扉があるのが見つかった。
 家政婦に起こされたのだろう。 間もなく、ガウンを着た白髪混じりの男性がドアから入ってきた。
「なんですか、朝っぱらから」
「家宅捜索です。 こちらに金庫がありますね。 鍵を渡してください」
 和基は大声を出したりはしなかったが、話し方は凛としていて、相手に文句を言わせない圧力を感じさせた。
 社長は口を尖らせた。 それでも不満を声に出さず、廊下の向かいにある書斎らしき部屋から鍵を持ってきて、自分で開けた。
 中には書類と手提げ金庫、それに分厚い札束があった。 
「金は持ってかないでくださいよ。 決算に必要なんだ」
 かみつくように言った後、不満がつのってきたらしく、社長は口の中でぶつぶつ言った。
「俺はなんもやましくないよ。 こんなところに頭突っ込むより、隣ん家に入った泥棒を早く捕まえなさいよ」




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