表紙

水晶の風 15


 ローレルハウスという英語名のついたその店は、表にフランス国旗のような色分けのサンシェードがかかっていて、メニューにはイタリアンぽい料理が多いという、国籍不明な雰囲気だった。
――そうそう、中西さんが教えてくれたのは、確かこの店だ。 夜来ると多少違って見えるな――
 フォーク使いに自信がなくて、和基はスパゲッティやロールキャベツ系は止め、ローストチキンとシーザーサラダにした。 麻耶は熱心にメニューを眺めて、スモークサーモンと海老のクリーム和えを注文した。
 料理が来るまで、映画の話に花が咲いた。
「決戦シーンは凄かったですね。 どこからCGなのか見分けがつかなかった」
「目のくらむような塔から落ちていくところ、あれもCGでしょう? 前とか横とかいろんな角度で撮影してて、リアルすぎて目まいがして」
「スパイダーマンの映画で、ビルからビルへ飛び移るシーンもそうでしたよ。 映画が劇画に近くなってるというか、アクションが誇張されてますね」
「主演の男の人、ジョージ・マーティン・ウッドさん」
 映画館で買ったパンフレットを見直しながら、麻耶は微笑した。
「ラブシーンより戦闘場面のほうが楽しそうでした」
 そうかなあ、照れくさそうだったが結構いい味出してたと思うけどな――和基がそう言ってみようとしたとき、料理が運ばれてきた。

 デザートにブランデー風味アイスを食べ、支払いを済ませて店を出たとき、時計は七時少し過ぎを指していた。
 まだ宵の口だ、と和基は物足りなく思った。 すると、麻耶も同じことを考えていたのだろう、ふと顔を上げて誘った。
「お城まで足を伸ばしてみません? そろそろ紅葉のシーズンだから九時までライトアップしてるはずなんです。 地元にいながらニュースでしか見たことなくて、一度は行ってみたいと思ってるんですが」
「あ、そうなんですか? そりゃ綺麗そうだ。 行きましょう、タクシー拾って」
 和基の声も高く弾んだ。
 
 


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背景:硝子細工の森
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