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水晶の風 14
幸い運転手はベテランで、最短距離を探してうまく線路沿いのロードショー館に運んでいってくれた。 金を出すときに目をやった時計は十五時三分前を指していた。
ドアを開いてすべり出ると、さっきにはなかった冷たい風が吹き付けてきた。 映画館の横にバイク置き場があって、その鉄柵に、オフホワイトのコートを着た麻耶が軽く寄りかかっていた。
オーダーか? と思えるほど、その長めのコートは麻耶の体型によく合い、裾がきれいなドレープを描いて広がっていた。 ヘアサロンに行ったらしく、髪も軽やかにまとまっている。 モデルみたいに決まってるな、と和基は気後れした。
タクシーから降りた和基を見て、麻耶は驚いたようだった。 すぐに柵から体を離し、小走りでやってきた。
「あ、急がせちゃいました?」
「いや、出がけに人が来て、ちょっとバタバタになって。 間に合ってよかったです」
それから和基は心配になって、小声で尋ねた。
「いつここへ?」
「四分ぐらい前です」
よかった、そんなに待たせてない――和基はひとまずほっとした。
映画は半分ぐらいの入りだった。 話は王妃と騎士との結ばれない恋で、少し切なさは足りないものの、大画面で見る戦闘シーンはなかなか迫力があった。
2時間ちょっとで映画が終わった後、街灯の点った街へ出て、和基が真っ先に考えたのは、中西に教わったレストランがどちらの方角かということだった。
「麻耶さん」
名前を初めて呼んだ。 喉が普段より狭くなったような気がした。
「はい?」
麻耶の茶色がかった大きな眼が見上げた。 とたんに胸が小さく疼いた。
「ローレルハウス知ってます?」
茶色の眼がけむったように輝いた。
「小杉通りの? ええ、行ったことあります」
「小杉通り……どっちでしょう?」
来たばかりの余所者なんだから、素直に訊くに限る。 和基は見栄を張らず素直に尋ねた。 その言い方に好感を持った様子で、麻耶はそっと彼の肘に手を置いた。 通すまでの度胸はなかったようだが。
「確かこっち。 あの信号を渡るとすぐ」
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