表紙

 空の魔法 50 またあの子



 英語のレッスンは翌日にもあった。 いつもならそこらへんにある服を着て出るのだが、その日、絵麻はちょっと気を遣って、グレーとペールピンクのツーピースを着ていった。 あの見知らぬ女の子が同じ英語教室に通っているのなら、また顔を合わせることがあるかもしれない。 それが今日とは限らないけど、もうパカにした目で見られたくなかった。


 なんと、用心は報いられた。 絵麻が泰河と連れ立って英語教室のロビーに入ると、あの女の子が受付の横に寄りかかっていて、絵麻と目が合ったとたん、ニヤッと笑った。
 ニコッではない。 まさにニヤッという言葉がふさわしかった。 あまりなれなれしいので、絵麻はたじろぎかけたが、横の泰河が噴火しそうになったため、彼を引き止めるのに全力を使って、他のことには構っていられなくなった。
「くそっ、あいつ! 昨日あんだけ言ったのに!」
「やめて。 喧嘩しちゃだめだって。 ここに通いにくくなる」
 飛んでいこうとする泰河を抑えて、必死で腕を掴んでいると、布のちぎれる音が小さく聞こえた。 泰河が振り向き、低く唸った。
「あーあ」
「ごめん。 でもやめよう、ほんとに」
 すると、女の子のほうがこっちへやってきた。 歩き出してわかったのだが、今日は一人ではなく、二十歳ぐらいのかっこいい男子と一緒だった。
「こんちはー」
 男子のほうが愛想よく声をかけてきた。 泰河は女の子を睨んでいるだけだ。 しかたなく、絵麻が小声で応えた。
「こんにちは」
「ここ通ってるの?」
「そう」
「授業、受けてどう?」
「いいと思うけど」
 すると男子は、女の子のほうに顔を向けて、安心したように報告した。
「いいって」
「よかったー」
 女の子はずいぶん大げさにはしゃいでみせた後、光る眼でじっと泰河を見据えたまま、元気に言った。
「じゃ、ここにしよっ。 ねえ、何曜日に来てるの?」
 その質問と、甘ったるい笑顔は、絵麻に向けられた。 だが絵麻が答える前に、泰河がびしっと言い返した。
「おまえの来ない日」
 かっこいい男子の表情が変わった。 それまでの愛想のよさはどこへやら、一瞬で冷たい顔に変わって、皮肉な口調になった。
「おまえって、いまどきおまえって言い方ないだろ」
 すると泰河は低音になり、間髪入れずに言い返した。
「おまえでも上等だよ。 助けてもらったのに嫌がらせしに来るやつなんてよ」







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