表紙

 空の魔法 51 謎めいた子



 おっとりした感じの男の子は、明らかに困った表情になった。 そして、自分より頭一つ分小柄な女の子にかがみこむようにして尋ねた。
「助けてもらったの?」
 すると女の子は口をへの字にして、眼をうるませた。
「道を教えてもらっただけ。 でも親切だった。 そのときは」
 男の子はその言い方に何かを感じ取ったらしく、急に戦闘意欲をなくした。 そして、ちょっと皮肉な目つきで泰河と絵麻を見比べた後、女の子の肩を抱くようにしてうながした。
「また今度来ようよ。 教室は逃げてかないからさ。 ね、これから御苑〔ぎょえん〕のライブハウス行かない?」
 女の子はちらっと受付の上にある時計を眺めて、きれいな顔をかすかにしかめた。
「こんな時間に?」
「夜中の十一時までやってるよ。 昼間っからずーっと、いろんなのやってる」

 この二人は前から知り合いだったのだろうか。 それとも現在、ナンパ中?
 どっちだろうと絵麻が考えていると、泰河が女の子をまっすぐ見据えて言った。
「温泉町から出てきて、すぐ遊びまわってどうすんだよ。 ケガしないうちに、とっとと帰れ」


 そのとき、電気が走ったように、絵麻はピリッとなった。 泰河はこの子をよく知っている。 ただ道を教えただけなんて、ありえない。 二人は同じ年ぐらいに見えるが、たぶんクラスメイトとかそういうのではない。 じゃ、どこでどうして知り合ったのか。
 バイト仲間でもなさそうだ。 温泉町から出てきたばっかりなのだから。 考えたくないけど、まさか泰河を頼って来たとか……?
 館内に流れていたポップな曲が急に途切れ、授業開始のオルゴール・メロディになった。
「行くべ」
 泰河が低い声で言って、絵麻も歩き出した。 すると女の子の声が追ってきた。
「私、加奈〔かな〕よ。 あなたは?」
「放っとけ」
 泰河が小声で言った。 だが絵麻は振り向かずにはいられなかった。 加奈と名乗った女の子は、どこかひどくもろそうな感じで、突き放すとヤケになって泰河に八つ当たりするのではないかという不安があった。
「絵麻」
 穏やかに答えた絵麻に、女の子の視線が食い入った。 嫉妬だろうか。 どうもちがう気がする。 憎しみでもない。 それは奇妙な、放心したような眼差しだった。







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