表紙

 空の魔法 21 始まる悲劇



 そしてめでたく期末試験は終了し、三日間の休みに入った。 残念なことに泰河の学校とは期間がずれてしまい、彼がビルクリーニングのバイトに入ったばかりだったので、仕方なく絵麻は友達四人と、試験がめでたく終わったお祝いに、学校近くのリゾットカフェに出かけた。
 そこは上等な倉庫といった雰囲気だった。 ほの暗い天井には配管がうねって走り、ばらばらな種類のレトロな家具が所狭しと並べられている。 さらには上下に分かれた昔の寝台車みたいな個室があって、カーテンで仕切れるようになっていた。
 絵麻たちは面白がって下の個室に入り、小さなテーブルを囲んで、千円でお釣りが来るランチセットを楽しく食べた。 絵麻の小遣いは月に一万円だ。 平均と比べると倍ぐらいだが、友達には十万円以上もらっている子たちがいて、その連中とは気が合わず、付き合わなかった。 だから仲間はだいたい中産階級。 高い店には集まれない。 その点、クラブの上級生に教えてもらったこの店は、いろんな意味で合っていた。
 絵麻はリゾットではなくパスタを注文したが、それもけっこうおいしかった。 母を連れてきたら、この味を何ていうかな、と思った後で、絵麻はひらめいた。 そうだ、ここなら泰河と来るのにぴったりじゃないか!


 泰河と入る秘密基地♪ その光景を思い描きながら、うきうきと四時過ぎに帰宅した絵麻は、ただいまー! と元気に家に入って、驚いた。 誰もいない。 今日期末試験が終了すると聞いて、母は絵麻の大好きなマンゴープリンを作って待っていてくれるはずだったのだ。
「さては忘れたな、チッ」
と大げさに嘆きながら冷蔵庫を開けてみると、中にはきれいに生クリームで飾りつけたプリンが並んでいた。
「あれっ? 変だ、どうして出かけちゃったの?」
 そのとき、絵麻は異変を感じた。 家はいつものように片付いていて静かなのに、妙にひんやりした感じがする。 エアコンがつけっぱなしだから涼しいのは当たり前だ、とわかったとき、いやな予感は確信に変わった。 素子は旧家の生まれで、きちんとしつけられ、電気のつけっぱなしはしなかった。 ましてエアコンをつけたまま外出するなど、考えられなかったのだ。
 ひととおり家の中を探して、母がいない上に伝言もないのを確かめた後、絵麻は思い切って父に電話した。 仕事中はよほどのことがないかぎりかけるな、と言われていたが、これはよほどのことのような気がした。
 父はすぐ電話に出た。 そして、まったく怒らず、静かな声で話しだした。
「お母さんは、たぶん隣にいるんだと思うよ」
「えっ?」
 絵麻は思わず声を上げた。 母と初美の仲は、どちらかといえば冷たく、招いたり招かれたりする間柄ではないはずだ。
「ここんところ、蔵人くんが長く帰ってこなかっただろう?」
「そういえば。 でも蔵人おじさんは、よく何週間も留守にしてるから」
「うん。 だから誰も心配してなかったんだが、さっき警察から連絡があって」
 父は話しにくそうに、声を落とした。
「男体山〔なんたいさん〕の麓で発見されたようだ。 今、そっちへ向かっているところなんだ」







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