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春雷 81
横向きの矢印が大きく描かれていた。 その先には大型の付箋が張り付いていて、細かい字でびっしり埋まっていた。 三咲は指でたどるようにして、漏らさずその字を読んだ。
* * * * *
さとるから聞いた。 いっちょ前に遊園地なんて行きやがって。
てめえみたいなクソ貧乏人のよそ者、三咲がマジになるわけない。
長栄一座なんて指先でチョイひねりつぶせるんだぞ。
三咲に手出すな。 殺るぞ。 本気でバラすぞ!
* * * * *
紙を持つ手が冷たくなった。 これはきっと、大倉の脅し文句だ。 忘れないうちに、そうやがメモしておいたのだろう。
大倉久士が二重人格だということを、也中口の住民の多くはうすうす感じていた。 中学三年のとき、同じクラスで、大倉の得意科目だった地理に満点を取ってしまった男の子がいた。 その子は翌日、下校途中に殴られて片目の視力が半分になる大怪我を負った。
その時間、大倉には完璧なアリバイがあった。 隣町で行なわれたマラソン大会でボランティアの交通整理をやっていたのだ。 だが密かに、殴った男は大倉家の水産工場に一時雇われていた下請け業者によく似ているという噂が流れた。
犯人は、結局捕まらなかった。
悪寒が足元から這い上がってきた。 突然前触れもなく、そうやが駆け落ちしようと言い出した原因は、これだったのだ。
三咲は焦って何度も失敗しながら、ようやく貼り付けた付箋紙をはがして、下を見た。
そこには、心のどこかで予想していた言葉が、乱れた太字で黒々と書いてあった。
* * * * *
七月十一日 (木)
人殺し!
あいつサイコだ。 本物のサイコだ!
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