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春雷 80
封筒を斜めにして振ると、膝に手帳がすべり落ちてきた。 ガンダムのシールを張ったその茶色の手帳に、三咲は見覚えがあった。
「これ、そうやが昔持ってたスケジュール帳……」
「へえ、メモに使ってたのかしら。 それとも、あなた宛の手紙を書いてるとか」
手帳の角には、無くさないように紐で小さなボールペンがくくりつけてあった。 鷲掴みにするような妙な持ち方で、そうやがこのペンを使って書き込んでいた姿が目に浮かんだ。
たちまち視野が涙におおわれた。 だが、三咲は左手できつく顔をこすり、中を開いた。
中はごく普通の手帳だ。 一週間の日付が見開きの二ページにわたって印刷されている。 三咲は赤の付箋がついたページをを開いた。 すると、六月が出てきた。 二人が初めて逢った平成八年六月後半だった。
* * * * *
六月十八日 (火)
青州飯店12:00。Rとlunch
浜で「みさき」と会う
美咲? 岬?
六月二十日 (木)
四時。浜
♥
船に雷……耳ガーン
三咲にkiss ×××!
惚れたか?
六月二十四日 (月)
初日(高楽)
仕出し弁当←中里と
三咲と「よんしゅの崖」←伝説の四人衆
六月二十五日 (火)
課題提出
三咲に会えない日
* * * * *
角ばった字で書かれたごく短いメモが、淡々と続いている。 だが、僅かな書き込みの中に、三咲に対する想いがあちこちから姿を覗かせていた。
胸を痛くしながらページをくっていた三咲の指が、二週間後で引っかかったように止まった。
* * * * *
七月七日 (日)
クソ野郎、おどしに来やがった!
* * * * *
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