表紙

春雷 79


 小野寺の言葉遣いが、三咲の心に引っかかった。
――命がけで守って……きた?――
 それは、今日だけのことではなかった。 明らかに、ある長さを持った期間を表していた。
 小野寺は、豪華なドレスに似合わぬダメージデニムのバックを探り、B5の封筒を見つけて、三咲に差し出した。
「頼まれてたのよ、創ちゃんに。 自分に何かあったら、これを速達で出してくれって」

 半ば放心状態で、三咲は封筒を受け取った。 右手がしびれて動かないので、左手で。
 ぎくしゃくした様子を、小野寺は目ざとく見てとった。
「ねえ、君。 指が変よ。 裏返ってる!」
 初めて吉峰も気付いて、腰を浮かせた。
「わっ、ほんとだ」
「あんたも何ぼやっとしてるのよ! 手当てしなきゃ。 さ、こっち!」

 小野寺が騒いでくれたおかげで、順番待ちせずに形成外科の医者が手当てをすることになった。 指の付け根が赤黒く変色して太くなっていたが、不幸中の幸いで単純骨折ということで、三週間もすれば指が動くようになるという診断だった。
 処置が済んだ後、三咲は大急ぎで手術室に引き返した。 しかし、まだランプはついたままで、何も変わっていなかった。
 ベンチに重い腰を落とすと、横に座った小野寺が囁いた。
「封筒の中を確かめて。 創ちゃんがあなたにだけ伝えたいことだったんだから」
 頭を不規則に揺らしながら、三咲は呟いた。
「怖い。 見たら、そうやが本当にいなくなっちゃいそうで……」
「逆よ!」
 我を忘れて、小野寺の声が野太くなった。 それでようやく、三咲は彼女の、いや、彼の正体を知った。
――そうだ、この人、外車に乗ってるっていう、そうやの友達だ――
「見なさい!」
 どすのきいた声で迫られて、三咲は封筒を小野寺に渡した。
「開けてください。 力が入らなくて」
「そうね、そうよ。 気がきかなくてごめん」
 すぐに小野寺がびりっと破った封筒には、国分寺の住所と三咲の名前が記してあり、きちんと切手が貼られていた。



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