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春雷 64
確かに思い当たることはあった。 そうやを失ったあの待ち合わせの日から、三咲は気力を失い、友達づきあいが悪くなった。 遊びに行こうと牧穂に誘われてもほとんど断ったし、大倉と通学路で会っても、海をぼんやり眺めていて気付かず、通り過ぎた後の背中で驚いたりした。
大倉と牧穂の二人は間もなく三咲から離れていき、通り一遍の挨拶しかしなくなった。 ただし、呑気な坂田は、少しぐらい冷たくされても態度を変えず、前と同じように話しかけてきた。
「山西、最近暗いぞ、おい」
とか、
「フケて山上パーラーでカツカレーパン買ってくっけど、山西も一個食うか?」
とか、ごく普通で、彼には三咲も気楽に応じることができた。
今でも坂田とは、正月に年賀メールのやり取りをしている。 他に連絡があるのはバトン部の仲間たちだけで、故郷とのつながりは細くなっていた。
三咲は唇を噛みしめた。 確かに愛想は悪くなっていたかもしれない。 だが、それを根に持って父の仕事を邪魔するとは、どういう根性だ。 三咲自身は学校で嫌な思いをさせられたことがないだけに、余計、父に対する申し訳なさがつのった。
ぎこちなく、三咲は母に訴えた。
「それはね、大倉くんは私のこと好きだったかもしれない。 二年のときは、そうかなーって感じたこともあったよ。
でもね、三年になったら牧穂と付き合いだして、楽しそうだったんだよ。 もう私なんかアウト・オブ眼中ってふうで」
「本心はそうじゃなかったんでしょ」
ずばりと言われて、三咲は頭を抱えこみたくなった。
その夜、父が帰宅したのは十一時過ぎだった。 転入してきた社員の歓迎会だったとかで、ご機嫌で玄関に座りこみ、なぜか六甲おろしを歌いながら靴を脱いでいる。 母はもう寝てしまっていた。
三咲は、調子っぱずれの鼻歌を聞きつけて、二階から降りていった。 父は肩越しに振り向いて、にっと笑った。
「お、出迎えご苦労」
「おかえりなさい。 靴、入れといてあげる。 そのままにしといて」
「サンキュな」
ふらつきながら立ち上がった父に、三咲は小声で言った。
「話、聞いた」
「え? 何の?」
「お父さんがなぜ転勤したか」
父の動きが止まった。
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