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春雷 41
杉町はまだ不思議そうだった。
「そう? 今日はなんか、印象強いよ。 迫力があるっていうのか」
「はあ?」
三咲は目をむいた。
「迫力? K1じゃないですから、私」
笑い合って、その場はそれですんだ。
オークションルームへ入るには買参カードが必要だ。 まだその資格を持っていない三咲は、せりの間もずらりと並んだ切花を見て回り、新種や売れ筋をメモに取った。
春は紫の花が多く咲くという。 だが、人工的に交配され、人目を引くことを第一に改良された花々は、虹よりも多い色を競って咲き誇っていた。
スイートピーはもう入荷のピークを過ぎたが、引き合いは多い。 このクリーム色のとあっちのトルコ桔梗を合わせたら素敵なコサージュができるかも――三咲は心の中で出来上がりを想像してみた。
次に、鉢のコーナーへ行って眺めていると、声がかかった。
「終わったよー」
「はいっ」
大声で答えて、三咲は小走りになって店長たちに合流した。
一時までネット販売で画面を操作した後、その日の業務は終了した。 三咲は同僚の藤崎に引き継いだ後、いそいそとロッカーに向かった。
今日は水曜日。 久しぶりに中華料理が食べたくなって、バー○ヤンに足を向けた。
途中に、ビルの建築現場があった。 施工主の掲示がかかっている。 何気なく目を通して、三咲ははっとした。
「田上ビル……?」
さらに近寄って端から端まで読むと、本社の住所が書いてあった。
「港区北青山二の十一の○」
一等地だった。 そうやとの間に開いた距離を、三咲はようやく、はっきりと実感した。
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