表紙

春雷 28


 四人は夕方まで連れ立って遊んだ。
 里子はすぐ元気になったし、男の子二人もだんだん用心が融けて、口数が増えた。
「へえ、芝居やってんの?」
「うん。 大きなとこじゃないけどな」
「小劇場?」
「まあ、そんなもん」
 松枝ははっきりとは語らなかった。 川西もあまり興味はないようで、すぐ話題を変えた。
「パチンコやる?」
「たまに」
「駅前のドラゴンパワー、よく出るぜ、あそこ」
「ふーん」
 どうでもいい話をしながら、四人は狭い遊園地を動き回って、けっこう楽しんだ。

 駅で別れる前に、里子が三咲に耳打ちしてきた。
「ナイショだよ。 あの人のこと、学校で誰にも言わないでよ」
 あの人、という呼び方が秘密めいていて可愛らしかった。
 こっちから口止めしようとしていた三咲は、ちょっとびっくりしたが、嬉しくもあった。
「言わないよ。 里子もね」
「ぜったいに言わない」
 それから里子は、気がかりそうに付け加えた。
「やっぱさ、大倉にわかんないように付き合ったほうがいいよ」

 三咲は、ベージュの厚底サンダルを段差に引っかけそうになって、顔をしかめた。
 大倉、大倉…… 彼が三咲をターゲットにしているのは、よそのクラスの里子にさえわかるらしかった。
「大倉って?」
 川西と談笑しているようだった松枝が、不意に振り向いて尋ねた。 さりげなく背後に聞き耳を立てていたらしい。
 三咲は、ぶすっとした声で告げた。
「同級生。 なんでもないよ。 ただの友達」
「その言い方がチョベリバだ。 ただのお友達なの〜とかタレントがいうと、たいていデキてるもんな」
 川西が余計なことを言った。



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