表紙

春雷 27


 四人は何となくグループになって、木陰のベンチに移動した。
 ガムを口から出して、そのまま近くの屑篭へ放り込むと、長髪の彼は言った。
「俺、川西。 デンショー菊作ってるんだ」
 一回聞いただけでは何のことかわからなかった。
「菊って、花の?」
 三咲の問いに、男の子は歯を見せて微笑した。 すると意外にも、人のよさそうな表情になった。
「電気で照らすって書いて、電照。 時間調節して、好きなときに花を咲かすんだ」
「ああ、ハウス栽培」
「そうそう」
 それまで無言だった松枝が、さりげなく口を入れた。
「俺は松枝。 よろしく」
「おう」
 川西は気軽に答えた。

 一方、女子二人はまだぎこちなかった。
「ここ、よく来るの?」
「三回目かな……三咲は?」
「初めて」
「ふうん」
 で、話が途切れる。 間が持たなくて、二人とも困っていた。
 やがて、里子のほうが思い切って言い出した。
「三咲にBFがいるなんて知らなかったな」
「こっちこそだよ」
 三咲も負けずに言い返した。 すると、川西がのんびりした調子で、とんでもないことを口走った。
「俺BFじゃねーよ。 婚約者」

 思わず三咲は椅子に座りなおした。
「婚約……?」
「そうだよ。 五つのときから決めてるんだもん。 大人になったら結婚しようって、ずっと言ってたんだよな? な?」
 顔を覗きこまれても、里子は返事せず、そっぽを向いて木馬に乗った女の子に視線をすえていた。 だが、その頬はピンク色に染まって、いつになく可愛らしく見えた。
 


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