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春雷 26
駅の東口を出て、バスに乗った。 ひがきやま遊園地には、小さいときに二度行ったことがある。 うろ覚えだが、たしか緑色の門に、クマとウサギが手をつないでスキップしている絵が描いてあったはずだ。
土曜日だから、遊園地前で降りる客は多かった。 記憶通り、緑の門に動物たちの絵が跳ねていたので、三咲はなつかしくなって、松枝の手を引いて早足になった。
中はいくらか新しくなっていた。 以前にはなかったジェットコースターがある。 ゴーゴーサーフィンという名前のコースターに乗って、三咲は帽子を押えて遠慮なくキャーキャー叫んだ。
松枝は横でにこにこしていた。 軽業ができるぐらいだから、ジェットコースターの揺れぐらいではびくともしない。 目に手をかざして遊園地の中を見回す余裕があった。
「あっちにスタンドがあるよ。 降りたらアイスかキャンデー食べに行くか」
「うわお!」
最後の大カーブが来たので、三咲の答えは悲鳴になった。 松枝はくすくす笑っていた。
木陰の白いスタンドに並んで、スリーワンダーという三色重ねのコーンアイスを買って、食べながら腕を組んで歩いた。 風船を持った女の子が通る。 父親に肩車された男の子が、はしゃいであちこち指差していた。
満ち足りた気分だった。 太陽は薄い雲に隠れ、施設内には心地よい風が吹き抜けていて、それほど暑さを感じない。 隣りには大好きな人がいる。 歌い出したいぐらいだ。
そうだ、今度は二人でカラオケに行こう。 そうやは何の曲を選ぶかな。 やっぱり演歌か、それともラップかな……
「あれ」
喉に詰まったような声が前から聞こえて、三咲は目を上げた。
紺のブラウスに白いミニの赤木里子が立っていた。
信じられない気持ちで、三咲は二度見直した。
「部長?」
「うん」
どちらもきまり悪そうに視線で探りあう形になった。 赤木の横にも男の子がいる。 ひょろっとした子で、長髪を後ろで結んでいた。
その子が、ガムを噛みながら赤木に訊いた。
「知り合い?」
「同じ部活」
「へえ、じゃダブルデートと行かね?」
行かね? 堅物の里子部長が、こんな軽い男と付き合ってるの?――三咲はどうしても、長髪くんをまじまじと見つめてしまった。
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