表紙

春雷 22


 試験期間中、三咲は真面目に勉強した。 大倉から渡された予想問題はよく当たり、一割から二割、得点が上がった感じだった。
 牧穂も、ほくほくしていた。
「返してもらうの楽しみだね」
「やったぜ、と思ったけど、最初の数学だけだった」
 机にまたがって、坂田がぼやいた。
「坂っち、数学のプリントしか勉強しなかったんでしょ?」
「あったりまえだよ。 あんな分厚いの、見ただけで眠くなっちゃうよ」
「やっぱ大倉くんにお礼言っとかないと」
 立ち上がろうとした三咲を、牧穂が押えた。
「いいって。 まだ正式な点わかんないし、それに結局自分のために予想問題作らせたわけでしょ? 私達にくれたのは、あくまでもおまけだもん。 特に感謝することないよ」
「今度はもっと早く見せてくんないかな」
 次はもう決まったという口ぶりで、坂田が希望した。

 それでも、牧穂と帰る道の途中で大倉が追いついてきたとき、三咲は愛想よくほほえみかけた。
「問題、相当ピタピタッて当たったね。 助かった」
「特に古典の二問目、まったく同じところが出たじゃない? びっくりしたわ」
 牧穂までが調子よく口を合わせた。 大倉はにこりとして三咲の横に並び、さりげなく言い出した。
「それならさ、うまく行ったお祝いに、山上パーラーへ寄ってかないか? ピーチパフェを先週から始めたってさ」
「いい!」
 ケーキとパフェ好きの牧穂が大声をあげた。 でも三咲は首を振った。
「あ、今日は父さんと出かける約束してるの。 それに、制服で飲食店に入るの禁止でしょ?」
 そうなのだった。 おとといたまたま、父が会社の同僚から優待券をもらってきて、高楽劇場の一等席が安く取れたのだ!
 三咲の通う県立北楠〔ほくなん〕高校は、一日ニ教科ずつ五日間かけて試験をする。 最終日のその日は金曜で、松枝が隣町から帰ってくるはずだった。
 だから朝からわくわくしていた。 休み時間に空を流れる雲をながめて、いろいろと想像した。
――そうやはおとなしく見えるけど、舞台だとどんな風なんだろう。 一週間休んで、ちゃんとトンボができるかな。 見得を切る場面があったら、声かけちゃおうかな。 雪也! かっこいい! なんて――
 考えただけで、頬っぺたが熱くなった。


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