表紙

春雷 18


 有田焼の皿に盛ってあるのは、確かに也中口〔やなくち〕町一番の洋菓子店『金華堂』のケーキだった。 ただし、種類はモンブランといちごショートケーキという無難な組み合わせで、牧穂の興奮はワンランク下がった。
「あうち、モンブランは苦手……」
「おやつ食いに来たわけじゃなかろ?」
 坂田に突っ込まれて、牧穂はふくれた。
「だって……」
「たしかもらい物のマカロンがあったよ。 山田さん! あれどこだっけ!」
 大声で呼びながら、大倉はお菓子を探しに出ていった。

 その間に、女子二人はふかふかしたラブソファーにさっさと陣取った。 坂田は広い部屋をふらりと歩き、飾り棚を埋めたゴルフのトロフィーの間から『名探偵コナン』のマンガを見つけ出して立ち読みを始めた。
 やがて、フランス製のしゃれた菓子箱を持って大倉が戻ってきて、おやつを食べながらの勉強タイムとなった。
 一同が席に落ち着くと、さっそく大倉はコピーした紙束を三人に配った。
「伊井崎〔いいざき〕に予想問題作らせたんだよ。 英語、国語、それに、はい、数学。 一教科七千円でさ。 いいバイトだって喜んでたよ」
 くったくなく説明する大倉に、三咲は素直に喜べないものを感じていた。 伊井崎の父親は、大倉の父が経営している会社の顧問弁護士だ。 依頼主の息子から頼まれたら、嫌な顔はできないだろう。 大切な一学期の定期試験前に、こんな余分な作業をやらされて、伊井崎は本当に喜んだのだろうか。

 出そうな箇所はみんな書いてある上に、ていねいな答えまで載っていたので、坂田はもうわかった気になって、気が緩んでしまった。
「後はうちで一通りこれやってみればいいわけだな。 ちょうど人数そろってるから、ゲームやらない? マージャンとか」
 大倉が苦笑して手を振った。
「だめだーめ。 まじめに行こうぜ」
「あたしはいいと思うよ」
 ソファーに寄りかかって両腕をVの字に上げて、牧穂までがそんなことを言い始めた。

 結局、大倉が自分の部屋からトランプを持ってきて、マージャン風ゲームを一時間だけやることで話がついた。
 でも、当然一時間で終わるわけはなく、ロンとかポンとか騒いでいるうちに、日はとっぷりと暮れてしまった。


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