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春雷 17
翌日は朝から雨になった。
昨日晴れてよかったと、三咲は思った。 どうせ今日はただの勉強会だから、天気が悪くたって別にかまわない。 六時限の授業を終えてバッグに教科書を詰め込んでいるとき、ふっとキスの感触が蘇ってきて、三咲は自然にハミングしていた。
「よっ、ご機嫌じゃね」
牧穂が寄ってきて、からかった。
「勉強会そんなに楽しみ?」
「マキホは?」
「いやー、勉強はめんどいね」
牧穂は正直だった。
「でもさ、大倉ちゃんの家でやるでしょ? おやつとか凄そう。 金華堂のバウムクーヘンかロールケーキならいいなあ」
「おいらド○ノのピザがいい」
ひょいと長い首を突き出して、坂田が言った。 女生徒二人は声を合わせて叫んだ。
「えー? やだ!」
牧穂が小声で付け加えた。
「太る……」
「ケーキは太んないのかよ」
坂田は憮然とした。
大倉久士の家は、淡いグレイと白のツートンカラーで、旅館のように大きいので遠くからよく目立った。
大倉家は代々の網元で、長い間地元の漁業を仕切っていた。 今では漁より海産物加工工場のほうに力を入れているが、土地の名門で有力者なことに変わりはない。 大倉の父は人望もあり、三期にわたって也中口町〔やなくちまち〕の町長に選ばれていた。
三咲、牧穂、それに坂田の三人は、大倉に連れられて学校から直通で彼の家に向かった。 表門は巨大な引き戸で、大きすぎて車で入るときにしか開かず、横に通用門が設けてある。 四人はがやがやと話しながら普通サイズの通用門をくぐり、白っぽい玉砂利を踏んで玄関に行った。
「おじゃまします」
「こんにちは」
ちょっと声を落として挨拶すると、中からハウスキーパーの山田さんが顔を覗かせた。
「いらっしゃい。 さあ、こっちへどうぞ。 おやつ用意してありますよ」
やった――ケーキ好きの牧穂は嬉しそうに三咲に目くばせした。 三咲も眼で笑い返した。
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