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春雷 7
黙って体を拭いていると、外のざわめきが波動となって伝わってきた。 雨の叩きつける音。 寄せる波の響き。 時折つんざく雷鳴が徐々に大きくなって、天空で打ち鳴らす巨大な鞭のように耳を打った。
二人はいつしか、寄り添って座っていた。 秋から春にかけて電源のブレーカーを切ってあるので、海の家は薄暗く、神秘的にさえ見えた。
上空から低気圧の寒気が降りてきたのだろう。 気温がぐっと下がり出した。 半袖から出た腕が冷えてきて、三咲はそっと両手でこすった。
「もう雨は峠を越した。 後二十分か三十分で小降りになるよ」
「うん」
別に急いで止まなくてもいい、と、三咲は思った。 濡れた松枝の髪から、いい匂いがただよってくる。 どこか和風の懐かしい匂いだ。 舞台化粧に使うものかもしれなかった。
「そうそう、前も訊こうと思ったんだけど、通信制ってどう勉強するの?」
「ああ」
のんびりと、松枝は説明を始めた。
「毎日が宿題みたいなもんさ。 各教科のレポートを出すんだ。 それで、月一は登校。 ただし、俺みたいに動き回ってる者は、前期と後期に二回、集中登校してもいいんだ」
「レポートね。 一人で勉強してるんだ」
「そんな感じ」
「嫌にならない? 毎日宿題で」
「なるよ」
松枝はあっさり認めた。
「周りの奴らもさ、中学出たんだからもう勉強なんかいいじゃないかって言うし。
でも俺さ」
一瞬間を取って、彼は声を低めた。
「誓い立てたんだ」
「誓い?」
松枝は 大きく二つうなずいた。
「絶対やり遂げてやる。 見返してやるんだ」
後で考えると、そのとき訊くべきだったのかもしれない。 だがまだ会うのが二度目で、微妙な遠慮があった。 いったい何を見返すのか、ためらっているうちに訊きそびれた。
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