表紙

春雷 3


 いつの間にか二人は浜を突っ切り、アスブァルトの路面に上がってきていた。
「どんな出し物やるの?」
 もうすっかり友達っぽくなっている三咲に、男はポケットから四つ折りになったちらしを出して渡した。
「こんなの」
 三咲はすぐに開いてみた。 黒っぽい背景に三人の人物が配置されている。 三度笠と縞の合羽〔かっぱ〕姿の渡世人風な写真を中心に、藤娘の女形と、なぜか裸同然のサンバ・コスチュームの娘が左右を固めていた。
 よくよく見ると、藤娘に男の面影があった。 三咲は目をこらして、下に小さく印刷してある文字を読み取った。
「竜川雪也?」
「あ、それは芸名」
 男はあっさりと訂正した。
「松枝〔まつえ〕っていうんだ」
「松枝……さん」
「くんでもいいよ。 オレたぶん君と大して年変わんないと思う」

 驚いて、三咲は哀愁漂う若者の顔に目をやった。
「ていうと、十代?」
「うん、高校生。 通信制だけど」
 ほう。 三咲の学校には定時制の子たちはいたが、通信制はいなかった。 たまたまデザインの通信講座を受けようと思っていたので、興味がわいた。
「通信教育ってどんな? あ、私は山西。 山西三咲〔やまにし みさき〕っていうの」
「こんちは、山西さん」
 松枝青年(少年?)は、楽しそうに言った。

 なんでこんなに気が合ってしまったのかわからない。 ともかく二人は並んでぶらぶら歩き出し、浜が遠ざかるまでいろんなことをとりとめなく語った。
「立ち回りのとき、膝を立てた姿勢からピョンと飛ぶから、ここにタコが出来ちゃってさ」
「ふうん。 私もバトン部だから、指のここに回しダコ。 ほら、固くなってるの」
「バトントワラー? おしゃれだね」
「そうでもないよ。 練習んときはジャージで、頭くくっちゃってね。 掃除のおばちゃんみたい」
 松枝はにこにこしていたが、すかさずからかうような様子は見せず、あくまでも穏やかだった。


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